悪役令嬢の天狗鼻をへし折ってみたら、なぜかただのツンデレになった。
仲仁へび(旧:離久)
第1話
乙女ゲームに出てくる悪役令嬢ってさ、なんか皆お高くとまってるよな。
敬われて当然。贔屓されて当然。
そんな感じで天狗になってんだよ。
ってなるとさ、その鼻っぱしら。
豪快にへし折りたくなるじゃん。
だから、いい機会だと思ったんだよ。
俺、なんか乙女ゲームの世界に転生したみたいだから、悪役令嬢をおちょくり倒してやろうって。
だから。
親自慢で鼻高々してた悪役令嬢に「それって、お前がすごいんじゃなくて親がすごいだけだろ」とか。
「可愛いですわ」とか「素敵ですわ」なんて褒められて有頂天になってる悪役令嬢に「服とか髪とか整えた奴の腕がよけりゃ、それなりの見てくれになるにきまってんじゃん」とか。
「はむかったら家を取り潰すわよ」云々言って気の弱い乙女ゲーム主人公(庶民)を脅していた悪役令嬢に「いや、犯罪行為やったらお嬢様でも誰でも牢屋行きだから。俺がゆるぎない証拠揃えるから」とかいった。
そしたらさ。
「べっ、別に貴方のために作ってきたわけじゃないんですからね!」
手作りクッキーを差し出しながら、なんか、ツンデレた。
普通に美味しかった。
善意のフリしたトラップでもない。
ただのツンデレ行為だった。
あれぇ、おっかしいな。
ツンで憎まれる事はあっても、デレて手作りプレゼントされるわけがないのに。
どこで好感度上がったんだ?
私は名家のお嬢様よ。
どこからどうみても正真正銘の、お金持ちのご令嬢。
周りにいる者達は、皆、私より格下。
目に付く者達は、私より家の格が低いのしかいないわ。
だから、何をやっても許されると思っていた。
けれどなぜか、調子に乗っていた私をいさめる少年がいたのだ。
彼は、私を褒めるでも贔屓するでもない。ただ当たり前の事を言ってきた。
人に悪さをするのはいけない事。
権力に物を言わせて罪をなすりつけるのもいけない事。
自分のやる事を人に押し付けるのもいけない事。
人の事を考えないで行動するのもいけない事。
そんな当たり前の事を。
始めはうるさい奴だと思ったわ。
彼は、庶民だったし、私より立場が低いから余計に。
そして、私を嫌っているからそうするのだと思っていた。
けれど違った。
彼が私をたしなめるのは、私が嫌いだったからじゃなくて、私が間違っていたからだったのね。
そう思うようになったのは、とある一件から。
「なあ、家庭教師さんよ。確かに彼女より年上で大人であるあんたが言った事の方が信憑性がある。けどしっかりした大人だからって、誰もが盲目的に信じると思うなよ。あんたが例の国宝を盗んだんだろ?」
町で起こった国宝の盗難事件。
私の部屋から見つかった国宝が証拠として扱われて大変な事になった。
それで、私が盗んだという事にされてしまったのだ。
濡れ衣だった。それは私の家庭教師がしくんだ罠だったのに。
だから、私は必死に「そんな事やってない。私は違うの!」って言った。
けれど、日ごろの行いが悪いせいか、誰も信じてくれなかった。
国宝を盗むことは、国への反抗。
どんな名家の者でも、罰は免れなかった。
素直に自白すれば、罪が軽くなるって言われたから。
信じてもらえないのが辛くて、私はやってもない事を口にしようとしていた。
「その自白、ちょっと待った!」
それでも、彼だけが私の言い分に耳を傾けてくれたのだ。
「真犯人は別にいる!」
彼だけが私を助けてくれた。
その時私は、自分がいかに間違った事をしてきたのか理解したのだ。
権力の怖さを。
権力がどれだけ人を傷つけるのかを。
権力がどれだけ人を愚かにしてしまうのかを。
権力を振りかざす人間がどれだけ醜いかを、知った。
だから、私は
「たまたま作ったのが余ったのよ。だからあなたのためじゃないのよ。勘違いしないでくださる?」
彼に感謝の言葉を伝えたかったのだけど、そう簡単に性格を変える事は難しいようだった。
今の私では、ぽかんとした彼にお菓子の包み紙を乱暴に押し付ける事しかできない。
これが精いっぱいだった。
いつか、普通にお礼を言いたい。
そんな素直になれる日が、くれば良いんだけど。
悪役令嬢の天狗鼻をへし折ってみたら、なぜかただのツンデレになった。 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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