闇は思考を蕩かすように

リュクレーヌ──ルーメンは弟ルーナエを大切に思っていたから、あの時マスカになる決断をしたのだろう。


機転を利かせて、自分自身になれば、誰も傷つけないで済むという最善の方法を選んで。

もっとも、リュクレーヌ自身は死にたくても死ねない怪物へとなってしまったのが。

フランは困惑しながらも、確かにその通りだと頷く。


「ねぇフラン。これほどに想われている僕が羨ましいだろう?悔しくないかい?この一年間傍に居たのに、兄さんはずっと僕しか見ていなかったんだ。じゃあ、君のやっていたことは何だったんだろうね?」


「……」


「でも安心して、今度は君が兄さんの為にマスカになればいい。そこまですれば、想いは伝わるよ!」


ルーナエは大げさに両手を広げ演説をするようにフランに言う。


「さぁ!ルーナエが羨ましいと思え!願え!リュクレーヌと血のつながった本当の弟になりたいと!」


見開かれた双眼がぎょろりとフランを捕らえる様に見つめる。

その視線は、フランの目に焼き付いた。


強く叫ばれる声は、洗脳するための呪文のようでフランの耳から脳にまとわりつくように聞こえた。

声と視線。

ルーナエから向けられるそのすべてが自分の感覚を融かす様だ。


──あぁ、もう、おかしくなりそう。


この闇に酔ってしまいそうだ──

 

音声を一通り聞いたリュクレーヌは機会を懐に戻した。

コートは着たまま、帽子を被り、玄関の方へと向かう。

無言のまま、せかせかとした動作を見せるリュクレーヌにブラーチは「おい」と声をかけた。


すると譫言のようにリュクレーヌは

「フランの居場所はあそこか……」

と呟いた。


「分かったのか!?」


「あぁ、驚くほど単純にな」


クレアとブラーチは驚愕した。

何処に手掛かりがあったのか二人にはさっぱり分からない。


だが、リュクレーヌは確信していた、フランの居場所を。

分かったのであれば早速迎えに行く。リュクレーヌはドアノブに手をかけて、事務所を出ようとしていた。


「ちょっと行ってくるよ」


ドアを開けて外の世界に出る。

だが、目の前にはリュクレーヌを阻むようにマスカの軍団が待ち構えていた。


「!?」


「マスカが!」


「ちっ……」


恐らく、ファントムによる妨害だろう。

リュクレーヌがフランの居場所を探り当てた場合の保険だった。


ファントムも用意周到だ。リュクレーヌは舌打ちをする。

そんなリュクレーヌの横をひゅっと鋭い風が通り過ぎた。


視線を上げ、マスカの方を向くと、クレアが機関銃で応戦していた。

背後からブラーチも術を唱え、マスカに対してダメージを与えている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る