弟の本心
「……本当に兄さんにはすまない事をしたと思っている。心から、ごめんなさい」
これだけは最後にけじめとして伝えなければならない。ルーナエは深々と頭を下げた。
リュクレーヌは背を向けたまま大きなため息を吐く。
「本っ当に……手のかかる弟だな」
そう言って、頭をガシガシと掻いた後、振り返って、もう一度ルーナエの方を向いた。
「なぁ。最後に一つだけ頼み事をしていいか」
「うん。僕にできる事なら……それが、償いになるのなら」
真剣な表情でルーナエは言った。
自分は兄に対して取り返しのつかない事をしてしまった。
その償いができるのであれば何でも聞くつもりであった。
「ファントムと俺を含めたすべてのマスカに関する記憶を全世界から消して欲しい。」
「え?」
「ファントムが魔術のルーツなのは契約者であるお前もだろう?だとしたらあの記憶操作はお前も使えるはずだ」
「うん、できるよ……その人の心……魂を書き換えてしまえばいい……けど!」
ファントムの記憶操作。リュクレーヌが何の為にそんな事を依頼したのかはルーナエに分からなかった。
「理由は、もう二度と、こんな哀しい兵器を作るやつが居ないように……だ」
だが、リュクレーヌにはルーナエの言わんとしている事が分かっていた。理由を訊かれる前に答えた。
もう二度と、自分の人生を捨てて、誰かになりたいなどと言う人間の望みが叶わないように。
自分の人生を最後まで歩める世界になるように。それがリュクレーヌの願いだった。
「……分かった」
ルーナエはこくりと頷く。
納得してもらえたようでリュクレーヌは安心し、柔らかく微笑んだ。
しかし、上がった口角はみるみるうちに下がり、憂を帯びた表情へと変わっていく。
「俺も、悪かったよ」
罪悪感。懺悔の言葉をリュクレーヌは口にした。
ルーナエは随分と驚いた。
「お前の気持ちをもっと考えられたら──」
「それは違う!」
ルーナエがリュクレーヌの言葉を遮るように叫んだ。
「人の気持ちなんて、目に見える物じゃない!絶対に分かるはずないんだ!だからこそ伝えなきゃいけなかったんだ!」
他人の心は見えない。絶対に分からないものだからこそ、悪魔に付け込まれるまで抱え込んではいけなかった。
気づいてもらう事を待つ前に伝えていればよかった。たった一人の兄弟なのだから。
「あの時は、兄さんが羨ましくて、妬ましいと思っていた。けど違った。分かったんだよ、僕は、兄さんに憧れていた!」
「ルーナエ……」
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