過去への扉
ブラーチが帰り、事務所にはリュクレーヌとフランとルーナエの日記が残された状態となった。
リュクレーヌは両手を合わせ、口角をぐっと上げ、気合を入れる。
「さーて、俺達はこっちの日記の方を読んでいくぞ!」
日記帳の一冊目を意気揚々と手に取る。
「もう、大丈夫そうだね。リュクレーヌ」
「あぁ、ルーナエの動機がどんなものだろうと俺は向き合う」
ノスクルム邸でフランに言われた事を思い出す。
大丈夫、ルーナエは恨んでなんかいない。
例え恨まれていようとそれは過去の話。
ルーナエが自分をどう思っていようと、たった一人の弟を救うというリュクレーヌの目的は絶対に不変だ。
そう、思っているからこそ、リュクレーヌはもう躊躇わず、日記帳の表紙を開く。
まるで、ルーナエの心の扉を開ける様に。
◆
四月三日
今日から日記を付けようと思う。
父さんが、僕と兄さんに日記帳を買ってきてくれたからだ。
きっと、兄さんは三日もしないうちに飽きてしまうのだろう。
この日記帳が全て文字で埋まった時には、続きは兄さんの白紙の日記帳に書くとしよう。
僕は小さなころから読書が好きだ。
仮想の世界も現実にありえない話だって文字にしてしまえば物語として誰かの目の前に映るようなんだ。
僕も、どうせなら小説を書くように、誰に見せても恥ずかしくないようなものにしたいと思っている。
僕には双子の兄が居る。
兄さんは明るくて、遊ぶことが大好きだ。
よく一緒にチェスをするんだけど、どうにも勝てない。僕が兄さんに勝てるのは勉強位のものだ。
四月二十九日
今日は学校のテストが返却された。
ますまずの成績だ。
母さんに見せると、うんうんと二度頷き、「よく頑張ったわね」と僕の頭を撫でた。
僕は嬉しかった。
その後母さんは兄さんを見つけ、呼びつけた。
兄さんは嫌な予感でもしたように渋々母さんに近づく。
そしてテストを見せなさいと言われ、苦虫を噛み潰したような表情で答案用紙を差し出した。
母さんはそれを見るなり「まぁ!」と大きな声を上げた。
兄さんは酷い成績だったらしい。こっぴどく怒られていた。
「勉強をしないでゲームばっかりしているからです!貴方は長男でしょう!」
確かに兄さんはチェスやゲームばかりしていた。
だが、それと長男であるのは関係ないだろうと僕は思った。
僕が様子を伺うと、兄さんは僕を見つけるなり舌を出し笑っていた。
「また怒られちゃった」
「今回のそんなにテスト難しかったの?」
「あぁ、問題文から何が書いてあるのかちんぷんかんぷん。この世のものとは思えなかったね。お前はどうだった?」
「……九十点」
僕は申し訳なさそうに自分のテストの点数を告げる。
嫌味になっても、訊かれたのに答えないのは失礼だと思ったからだ。
「ルーナエは優秀だな!自慢の弟だよ」
それでも兄さんは喜んでくれた
兄さんは優しい。
僕が兄さんの立場なら恥ずかしくて点数を聞いた瞬間腸が煮えくり返っていただろう。
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