悪魔の胃

「そう!これ!えーと……」


挿絵の下に書いてある、脚注を読む。

一体ここは何処なのか。


「悪魔の、胃?」


胃だった。悪魔の胃袋は、骸が散乱した暗闇の崖だった。

フランがルーナエと出逢ったのも悪魔の胃の中だったという訳だ。

──どうしてそんな所に?

生死を彷徨った際に、呼ばれるのは悪魔の胃なのであろうか。

そもそも、何故、悪魔に胃が有るのだろうか。


「胃って、消化器官だよね。食べたご飯とかを溶かす……」


「そうだな。その胃だ。ん?食べ物?」


胃は、摂取した食物を胃酸で溶かし、消化しやすくする器官だ。

つまり、食べる者があるという事だ。だとすれば──


「アイツ、何食べているんだ?」


リュクレーヌが呟く。胃があるという事は、食べているものがあるという事だ。

では、何を食べているのか。悪魔の──ファントムの主食は何なのか?


「ちょっと、よく読んでみよう!」


フランが、該当ページの本文を指でなぞりながら読む。

悪魔の胃については以下のような記述があった。

 


悪魔は主に、人間の魂を食べます。

胃に残っている骸は、食べられた人間の魂の残骸です。

胃では、囚われた人間の生前好きだったものや思い出深いものを使い、おびき寄せます。

その方向へ行こうとしたが最期、人間の魂は閉じ込められ、地獄の業火に焼かれて魂は消滅します。


 

記述を呼んで、二人は互いの顔を見合わせる。

これはとんでもない事が分かってしまったと、背筋を震わせた。

ファントムが人間を殺していた理由は、至って単純。食事を摂るためだった。


「ファントムの目的って……もしかして、人間の魂を食べる事?」


「あぁ、違いない」


人間が肉や魚やパンを食べるのと同じ事だった。

食物連鎖の頂点に立っていた人間が、さらに悪魔に食べられる。肉体ではなく魂を。

悪魔は魂そのもの。当然、食べるものも魂になるのだとすれば合点がいく。


「もしかして、ファントムの目的をルーナエさんが知って……マスカの製造を止めようとしたから僕を助けに来たって事?」


「だな、今まで人間の魂を集める為に作られた殺戮マシーンがマスカで、ルーナエはそれに気づいた。だから、体を乗っ取られた……」


ファントムの動機。ルーナエがファントムに狙われた理由。話が随分と進んだ。

やっぱりこの本は持って来て正解だったとリュクレーヌはご満悦になりながら本を閉じた。

ふと、そのままフランの方を見る。


「フラン……」


「何?」


「これ、寝る前に読むもんじゃなかったよな」


「確かに」


良い本だった。


しかし、不気味で残虐でかつリアルな挿絵で図解されたそれは、夜中の、これから灯りを消して、眠りに就こうという時間読む内容では無かったなと二人は少しだけ後悔した。


悪夢を見ませんように、と祈りながら眠りに就く羽目になったのだから。

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