日記と本
リュクレーヌは日付を確認した日記をフランに渡す。日記を受け取ると今度はフランがゆっくりと読書をするように日記を読もうとしていた。
だが、リュクレーヌはそんなフランを制止し、日記を閉ざす。
「読むのは後だ。とりあえず、これは持って帰るとしよう」
中身を確認するのは後で良い。今は手掛かりになりそうなものを全て収穫して、持ち帰る事が最優先であった。
フランは鞄に日記をしまいこんだ。ふと、視線を逸らせた先に鞄にしまった日記と同じような風貌の本が置いてある。
その本も手に取る。表紙を見ると、これにもまた日記と書かれている。きっとこれも持って帰るのだろうとリュクレーヌに渡すことにした。
「ねぇ、リュクレーヌ。もう一冊、日記があるよ」
「お、よく見つけたな。こっちは……事件の後だな。途切れ途切れだが、事件後から五年間分の日記が書いてある」
手渡された日記を受け取ると先ほどと同じようにパラパラとめくって日付だけを確認する。
こちらの日記帳には事件後の事が書いてある。ファントムに躰を乗っ取られた後のルーナエが残したものだ。
これもまた重要な手がかりだろう。
「という事は、リュクレーヌが捕まってからの事が書いてあるんだね」
「そういう事だな。これも持って帰るぞ。あとは、そうだな……この辺りの怪しそうな本も持っていこう」
そう言ってリュクレーヌは本棚に入りきらなかったのか床に散乱した本を指さした。
どれも不気味な装丁であり、できれば手に取りたくないなとフランは感じた。
それでも、遠路はるばる調査に来て、重要と思われる証拠品だ。散らばる本の内比較的シンプルな表紙のものを手に取った。
表紙に書かれたタイトルは物騒なものだった。
「悪魔の腸……うへぇ、なんだろうこの本」
「恐らく全部黒魔術系の本だ。マスカ制作やファントムに関するヒントがあると思う」
「ところどころ読めない字でいろいろ書いてあるよ」
「魔術の言葉だろう。帰ったらブラーチに解読してもらおう」
リュクレーヌは早口で言って急かした。フランは彼の様子に違和感を覚える。口調こそ落ち着いているが、いつもよりも話す速度が格段に速い。
まるで焦燥に駆られているようだった。隠す様に焦るリュクレーヌはある意味初めて見るかもしれない。
「ねぇ、リュクレーヌ。さっきからどうしてそんなに焦っているの?」
本を拾い上げていたリュクレーヌはピタリと動きを止める。そのままフランの方を振り向かずに、背中を丸めて沈黙した。
「……あまり、居たくないんだよ。ここ」
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