弟の部屋

あまりにも早い切り替えにフランは「そんな!」と叫んだ。


「リュクレーヌのお父さんとお母さんなんだよ!?もう少し調べるとか──」


フランの言葉にリュクレーヌが顔を向ける。

固く噛みしめられた唇に、今にも泣きそうで力が入ってしまっている瞼。

彼も、状況が受け入れられない、見て取れた。フランはリュクレーヌの表情を見た瞬間、これ以上は何も言えなくなり、黙ってしまった。


「俺にも何が起きているか、分からないんだ。少しだけ……忘れさせてくれ」


「ごめん……」


「それに、ルーナエの事を調べればこの事件についても何かわかるかもしれない。急ごう」


このまま悲劇の食堂に居ては本来の目的を忘れてしまいそうで、リュクレーヌ達は先を急いだ。

 


食堂のドアを閉め、突き当りの通路を左へと進む。

このまままっすぐ進めばルーナエの部屋だ。その隣はリュクレーヌの部屋なのだが。


「ここだよ。ルーナエの部屋」


リュクレーヌが取手に手を掛けると特につっかえる事もなく、ドアノブは引かれる。どうやら施錠はされていないようだ。


「鍵は、掛かっていないね」


「開けよう」


「うん」


ギイと鈍い音を立てて、扉が開く。十年ぶりに入るルーナエの部屋だ。


「う……わぁ」


思わずフランが声を漏らす。無理も無いだろう。やけにおどろおどろしい雰囲気を纏っていた。

テーブルやベッドに黒と紫を基調にした布がいたるところにかけられ、厚く怪しい本が乱雑に置かれている。

部屋の一番奥には大きな鏡があった。鏡にも布が掛けられていた。

オカルトめいた、怪しい占いの館か、はたまたお化け屋敷のような雰囲気である。

そう、ルーナエは黒魔術を勉強していて、ファントムを呼び出してしまった。

一人で魔術を学び、ファントムという友人と、マスカを作り上げた現場がこの部屋である。

リュクレーヌはずかずかと部屋に入り、机の上を物色した。一冊の本のようなものを手に取る。

よく見ると表紙には「日記」と書かれている。


「リュクレーヌ?それは?」


「日記だよ。アイツのな」


「ルーナエさんの、日記……」


何が書いてあるのだろうか。フランには全く見当が付かなかった。

リュクレーヌはパラパラと速読をするようにページを捲る。その速さで何が分かるのだろうか、とフランは思ったが、リュクレーヌは日記を閉じた。


「日付を見る限り、十年前の四月あたりからの事が書いてあるな」


「事件の八ヶ月前だね。これに、ルーナエさんの動機やファントムとのやり取りや、マスカの創り方とかが載っているのかな……」

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