遠征ボロ豪邸

 

翌日には事務所を出た。暫く出かけますという張り紙を入口のドアに貼って。

二人はロンドンの街を暫く離れる。郊外へと出るにつれ、少しずつ平和な街へとなっていた。


やはり、マスカの攻撃によって荒廃していたのはロンドンの中心部であるのだろう。

大きなトラブルもなく、ノスクルム邸へと着実に向かっていた。

小さなトラブルならあった。出発して二日目の夜だったか、宿の部屋がほとんど埋まっており、開いているのはダブルの部屋のみという事があった。


流石に一つのベッドに二人で寝るわけにもいかず、フランはリュクレーヌにベッドを譲り、部屋に備え付けられていたソファで眠ることにした。

秋も深まり夜は冷えるだろう、とせめてものの毛布をフランに貸した結果、リュクレーヌは軽い鼻風邪を引いてしまったのだ。


その日は朝から「ぶえっくしょい」と派手なくしゃみをしていたが、翌日にはすっかり回復したようだ。

災いはそれくらいだ。順調に道のりを進み、馬車と徒歩を駆使して、四日目にはノスクルム邸へと到着した。


「いやー!懐かしいなぁ!」


リュクレーヌは久しぶりに足を踏み入れた生家の庭から、白を基調とした豪邸に対して大きな声を出した。


「ここにはいつぶりに帰るの?」


「えーと……俺がマスカになる事件から帰ってないから…十年ぶりくらいかな?」


十年前の事件。リュクレーヌの口から明かされた、弟ルーナエが悪魔と契約してマスカを作り、そんな彼を救う為にマスカになってしまった事件だ。

その後、リュクレーヌはずっとアマラ軍に身柄を拘束されていた。事件以降は一度も足を踏み入れていない。

そうだ、ここは凄惨な事件の現場だった、とフランは思い出す。

庭から見える事務所の何倍も大きい家は一見立派なようで、白い壁にはヒビが入っており、蔦の弦が蛇のように這っていた。


「あのさ、言っちゃ悪いんだけど、この家もうボロボロで人が住んでる様子がないよ」


「まぁ、もう誰も住んでないだろうな…あんな事件があったわけだし」


立派な豪邸であっても殺人未遂事件の現場となれば気味が悪くて済んでいられないだろう。

リュクレーヌが拘束された後、ルーナエと両親がいつまでここに居たかは分からない。両親に関しては安否すら不明だ。

ルーナエの躰を使ったファントムに殺されている可能性だってある。

しかし、今は過去を考えていても仕方がない。


「とりあえず、中に入るぞ」


「うん」


二人は、全ての始まりである実家へと足を運んだ。

 

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