ペストマスクの泥人形
◆
休息は長くは続かない。あっという間に朝は迎えに来る。
朝日はとっくに昇っていて、それでも──まだもう少し、とフランはベッドから起き上がられないでいた。
そんなもどかしいフランの部屋に、ドタバタと大きな足音でリュクレーヌが入室した。
「おい、フラン起きろ。分かったぞ」
「ん……何?」
「何?って昨日の人形の正体だよ」
昨日の、人形。分からないままで眠りに就いていたはずなのに、一夜のうちにあっさりと正体が分かってしまった。
一体どういう事だとフランはベッドから身体を起こす。
「人形……って、本当に!?」
「あぁ、これ見ろ」
そう言って、リュクレーヌは新聞を手渡した。
受け取った新聞紙には、いくつかインクが滲んだ丸印がされてあった。
一面にでかでかと載っていたのは昨日のペストマスクを被った人形の姿。
『新戦力ゴーレム、お手柄』と見出しがある。
記事によると人形はゴーレムと呼ばれる対マスカ用の新しい戦力らしい。
「ゴーレムって言うんだ」
「みたいだな」
「でも、人間に味方してくれる存在なら心強いね」
「何を言ってんだ。この新聞、奴のところのだぞ。俺はもう信用できねぇな」
「あっ……」
フランは思い出したようにハッとする。今手に取っているのはネオン新聞社のものだ。
あの編集長の書いた記事だ。利用できるものは利用できる限りとことん利用する。
この記事も、ゴーレムも安易に信用できない。
そう言えば、とフランは他の記事に目を向ける。今日もきっと、アマラ軍に対する批判が記事になっているのだろう。
「相変わらず、アマラ軍叩かれているね……」
「まぁ、あんなことがあったからな」
一ヶ月経ってもアマラ軍へのバッシングは続いていた。
記事にはオクトだけでなくアマラ軍への体制や整備の批難まで書かれていた。
オクトのしたことは決して許されることではない。
それでも、今までマスカと戦う唯一の希望と称えていたアマラ軍にまでここまでの掌返しを行うのかとフランは目を疑った。
変わって、ゴーレムと言う新たな希望が現れたからかもしれないが。
称賛と批難相反する記事を見比べながら「アマラと……ゴーレム、か」とフランは零す様に呟いた。
「ねぇ、やっぱりゴーレムの存在は危険なのかな」
「あの新聞社が推しているってだけで確証はないからな。今は分からない」
彼らが何という名前の存在か。今はそれしか分からなかった。
人間の味方であるかどうかまではまだ分からない。
「分からない……よね」
フランは、俯く。
相変わらず八方ふさがりのままか、と。
だが、リュクレーヌは前向きだった。
「だから、ここは専門家に聞こうぜ」
明るい声で言って、リュクレーヌは事務所の電話の方へと向かった。
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