ヒーローとヒール

「専門家?」と首を傾げていると、リュクレーヌの声が聞こえた。


「あぁ、もしもしブラーチ?」


どうやら、専門家の正体はブラーチのようだ。


 

リュクレーヌが事務所の方へと向って電話を取った直後、

ドンドンと強くドアがノックされる。リュクレーヌは電話中だ。フランが来客に対応するほかない。


「おい!居るか!探偵!」


ドア越しに聞こえる声は知っている声だ。

先日の事件にも手を貸してくれた刑事、ラルファだ。


何も警戒する事は無い、フランはドアを開けた。

目の前に飛び込んだのは、焦るような表情のラルファと額から血を流したクレアだ。


「どうしたんですか、ラルファさん?ってクレア!?」


「何だ?どうしたフラン」


電話が終わったのか、リュクレーヌも駆けつける。

怪我をしたクレアを見るなり、ぎょっと驚いた。


「大変だよ!クレアが怪我してる!すぐに手当しないと」


「大丈夫よ、これくらい」


「いや、跡になったりしたら大変だ。フラン、救急箱取ってこい」


大げさだ、とあしらう本人をよそに、リュクレーヌは命じる。

すぐにフランは生活スペースの方から救急箱を取ってきて、リュクレーヌに手渡した。

箱の中から、ガーゼと消毒液を取り出して、慣れない手つきでひとまず応急処置はした。

後に医者がくるから任せるのも手ではあるが、頭から血を流した少女を放っておくことは出来なかった。


「クレア、この怪我はマスカにやられたのか?」


「……違うわ」


「じゃあ誰が……」


「……」


クレアは怪我の原因について黙秘する。見かねたラルファがため息をついて、「実は」と事情を説明し始める。


「街の奴らに石を投げられていたから、とりあえずここに避難した、というわけだ」


「えっ!?なんで街の人が!」


「オクトさんが捕まったからよ……」


クレアが悔しさを噛みしめるように言った。


「でも、クレアは関係ないだろう!」


「ええ、関係ない。でもね、街の人たちもそんな事関係ないのよ……彼の裏切りからアマラという存在そのものを否定するの。自分と関係のない人物であれば大きな括りで見ることしかできないのよ」


寧ろ、フランと共に裏切り者のオクトを逮捕するきっかけを作ったのはクレアだ。それでも、彼女の所属がアマラ軍と言うだけで、同業に裏切り者が居る危険組織の同業者という目で見られる。


「ヒーローから一気にヒールになったのよ、私たちは」


「そんな……酷い」


やるせなかった。フランも、ラルファも。勿論リュクレーヌも随分と胸糞の悪い話だと顔を顰めた。

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