それが人間臭さ
◆
最後の最後まで不愉快な思いをした。フランも、かける声が浮かばず、地面を見ながら帰り道を歩いていた。
何も、言い返せなかった。自分の人間臭い部分を指摘されて、それはあの編集長と同じ事をしているじゃないかと。
醜く、愚かで、汚い──それが、自分達の本質であり、それが──
「それが、人間、か……」
「え?」
「あ、いや何でもない」
「嘘、誤魔化さないでよ」
つい、口に出てしまった言葉をなかった事にはできなかった。
ずっと俯いていたフランの瞳がリュクレーヌを捕らえる。
「あのさ、リュクレーヌ……もしかして気にしている?」
「別に、あんな奴の言う事なんか気にしてねぇよ」
「そうじゃなくて……」
「?」
リュクレーヌには心当たりがなかった。今回の事でなければいったい何の事だろう。
「前、僕、リュクレーヌに人間らしいって言ったじゃん」
「あぁ、よく覚えているよ」
「それなのに、今回みたいに、人間の本質を否定されるような事になってさ……気にしてないかなって」
人間を否定され、人間らしいという言葉がナイフになっていないか。フランには気がかりだった。
「はぁ?俺がそんな事気にしているとでも」
「本当に?」
「っ……」
「本当に、全く気にしていない?」
「……確かに、俺自身、躍起になっていたよ。アイツに目にもの見せてやる、って思っていた。それは事実だ。私怨で動いていた部分もあった」
あの編集長が憎かった。狂った人間の内部を見て、無意識下のうちに殴ってやろうとも思った。
やってはいけない事だ。あってはいけない事だ。
でも、それでも──
「けど、お前が居てくれた」
「僕?」
「あぁ。俺、一人じゃなくてよかった。俺が殴りそうになった時、止めてくれただろ。」
「うん」
「あの時、お前の声が聞こえたから我に帰れたんだよ。このままアイツを殴ったらお前にも迷惑をかける事になるって……」
「そんなふうに……思ってたんだ」
あの時フランが止めてなければ、リュクレーヌは拳で編集長を殴りつけていただろう。
「あぁ、一人だったら間違えていた。ルーナエ……みたいにな。そもそも俺は、弟がやってしまった事を正すために、アイツの間違いを少しでも何とかするためにマスカになったんだよ」
双子の弟は道を間違えて悪魔に躰を奪われた。そして、悪魔は弟の躰で人を兵器へと変えている。
あってはならない間違いを、傍に居ながら止められなかった──むしろ原因を作ってしまった兄は、なんとしてでも軌道修正しようとしていた。
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