例え君が何者でも

「そうだね、リュクレーヌは、ルーナエさんの為に……」


「人間は、間違えるもんだよ。弱いところだってある。それでも、間違いを直してくれるのも、弱い所を支えるのもまた人間なんだよ」


間違えるのが人間。しかし、正すのも人間だ。


「だから、フラン。気にするなよ。俺は自分がマスカになった事も、お前に人間らしいって言われた事も誇りに思っているよ。」


だからこそ、正す人間で居られるように、人間の心に誇りを持つ。

マスカになってしまっても、リュクレーヌは人間の心も悪くないと信じていた。

フランは、目を丸くして、すぐに顔を逸らした。そして、小さく呟く。


「……関係ないからね」


「ん?何が」


逸らした顔を、もう一度向ける。


「マスカだろうが、人間だろうが、リュクレーヌは僕にとって…………」


肝心なところで、フランの言葉は止まった。


「とって?」


「…………」


続きは出てこない。


「え、なんでそこで黙るの?」


「いい感じの言葉がでないんだよ!」


「そこは頑張れよ!尊敬する師匠ですとか、偉大なる恩人ですとかあるだろ!」


「あー、なんかそれは違うんだよね」


「酷いっ! !」


リュクレーヌが例として提示した賛美の言葉はばっさりと否定された。

だが、フランにとって、リュクレーヌが特別な意味を持つ存在という事は分かった。


「まぁ、いいや。なんとなく分かっただけでも安心したよ。頼もしくなったな、フラン」


「えへへ」


フランは褒められて照れながら頭を掻いた。


「……だから、これから起こる事には、徹底的に抗うぞ」


「抗う?これから起こる事?」


リュクレーヌの表情が徐々に険しくなる。

嫌な予感がする。彼が意味深な事を呟く時は、たいてい悪い事が起こる前兆だ。


 

翌日の新聞には案の定、オクトの記事が載っていた。

見出しには『アマラ軍はファントムのスパイ!?』と書いていた。

当然、その後の世間のアマラ軍へ対する風当たりは強くなった。あれ程までに称えていたというのに。


一ヶ月も時が経てばあっという間にアマラ軍は賊軍とレッテルを張られてしまったのだ。

そして、始まろうとしていた── 


「マスカだ!」


大砲のようなものが放たれる音がした。

音の方を向くと、上空にマスカが居た。


それも、一体じゃない、何十体ものマスカが、上空を覆いつくす。


「始まるぞ……」


「リュクレーヌ?」


「マスカと人間の戦争がな」


──戦争。


もう、姿を隠さない上空のマスカ達は、人間たちに宣戦布告をするようだった。

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