無茶な依頼

ドアノブが引かれ、ガチャリとドアは開く。

目の前には人だかりができていた。

リュクレーヌの目にまず入ったのは中年の女性だった。


「あぁ!やっと開いた。ルーナ探偵事務所のリュクレーヌさんですね」


「いかにも。僕が名探偵リュクレーヌ・モントディルーナです」


女性はリュクレーヌの名前を聞くと、救われたように目を輝かせる。


「よかった!本物よ!マスカ専門の探偵なんですよね?助けてください!」


「何故それを……助ける?」


話が読めなかった。

困惑するリュクレーヌにフランが助け舟を出す様に耳打ちをする。


「依頼って事かな?」


「……やっぱりファントムがまだ何かけしかけていたって事か」


依頼があるという事は、マスカが居るという事。

リュクレーヌの表情は険しくなる。


「あなた方は人間の皮を被っているマスカの正体を見破るらしいじゃないですか」


「はい。その通りですが」


「お願いします!この人がマスカかどうか調べてください!」


懇願するように女性は写真を取り出しリュクレーヌ達に見せる。

写真には、女性と同年代であろう眼鏡をかけた男性が写っていた。


「ふむ……この方は?」


「私の夫です」


淡々と話を聞いていると、女性の背後に居た人だかり達が騒ぎ出す。


「おい!ズルいぞ!俺の妹も調べてくれ!」


「私の友人も!」


どうやら同様の依頼が大量にあるようだ。

依頼の内容はどれも身内がマスカであるかどうかの調査。

なぜこれほどまでに同じ依頼があるのか、原因は全く心当たりがないが。


「落ち着いて。一人ずつ伺います。えーと貴方は?」


人だかりを一度宥めて、リュクレーヌは先頭に立つ女性に名前を聞く。


「リジュです」


「リジュさん。そうですね、旦那さんをマスカだと疑う理由は?」


「ありません」


「は?」


リジュはきっぱりと言い切る。

リュクレーヌとフランはきょとんとした。

二人の態度にリジュはもう一度毅然とした態度で口を開き直した。


「そんなものは有りません」


「じゃあ、どうして」


「だって、怖いじゃないですか!自分と寝食を共にしている身内が殺戮兵器だなんて……」


「……はぁ」


つまり、リジュは自分の傍に殺戮兵器が居るかもしれないという不安からリュクレーヌに依頼をしたという訳だ。

後ろにずらりと並ぶ依頼人たちも頷きながら彼女の話を聞いていた。

どうやら他の依頼人も同様に安心を得るためにリュクレーヌの元を訪れたのだろう。

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