海の男は心を壊して

「あなた方は300体の死体と引き換えに買われるのです」


「悪趣味にもほどがあるな。俺もいろんな事件に関わってきたが、ここまでタチが悪いのは初めてだ」


リュクレーヌはもう一度舌打ちをして悪態をついた。


「言い残したいことはそれだけでしょうか?」


「そうだな。しいて言うなら、聞かせて欲しい。いったい何のためにこんなオークションしているのか」


「いいでしょう」


司会者のマスカはリュクレーヌの要求を飲む。


そして、この事件の──いや、この闇オークションを開く事になった動機を語り始めた。


 

「私は、元々ただの漁師でした。若い時から船に乗り、海を渡り、それを仕事にする事は幼い時から決まっていたようです」


マリノスは小さな漁師町で生まれた少年だった。

両親は漁師をしており、自分もその仕事を継ぐものだと決まっていた。彼は人生という道を、その通り、進んでいき、漁師になったのだ。


「漁はいつだって命がけです。何度も死にかけましたとも。時には荒狂う天候の日であろうと利益の為に海へ出なければならない日もありました」


天候が悪いからという理由で、漁に出ないという事は許されなかった。

貧しい漁師町であるがゆえに利益を優先しなければ町の皆が共倒れする事になる。

無理をするしかなかった。


「私は抗議しました。命と仕事、どちらが大切なのかと。しかし、先輩の漁師も仕方がない、と言っていました。そして、私の父は海で死にました。悪天候の日に漁に出てそのまま帰らぬ人となりました。遺体すら、みつかりませんでした」


「そんな……」


「やってられませんでした。私は命を張ってまで商売などできません。漁師は若いうちに辞めてしまいました。しかし、船を操縦する能力ならありましたから、船乗りへと転身しました。船乗りになってからは漁師時代ほどの危険は有りませんでした」


マリノスは船乗りへと転職を果たした。

船乗りになってからは、悪天候の日の航海などはなかった。

命を危険に晒されるようなことは無かったため、安心したのだ。


「それでも、当時の船長には誰も逆らえませんでした。時には暴力を振るわれることだってありました。やはり、利益が優先とされる世界には変わりありません。働くというのはそういう事なのでしょう。私はひどく船長を恨みました。死ねばいいとまで思っていました」


当時の船長はワンマン気質であり、気に入らないスタッフがいると暴力を振るっていた。

そんな船長の事をよく思わない人間はたくさんいた。


勿論、マリノスもその一人だった。

いや、良く思わないなんてものではない。死ねばいいと恨むほどに──


しかし、マリノスの恨みは晴らされる事になる。

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