容疑者の部屋への訪問

「言っただろ、俺達は普通の探偵じゃない。マスカ専門の探偵だ」


「じゃあ……この事件もマスカが関わっているって事?どうして?ファントムが拘束されて一ヶ月が経つのに!」


「乖離が起こるまでのタイムリミット──一ヶ月という期間はマスカになってからの換算だ。もしも一ヶ月以上前に仮面を買って、そこから使わずにいたら乖離は起こらない」


ファントムとの契約を既にしていたものが仮面を暫く使わずにいたら、マスカになって一ヶ月は経たない。つまり、まだ乖離は起きないというのだ。


「だが、既にこの船の中で誰かが誰かに憑依している。マスカが生まれているんだよ」


「じゃあ、死体がめちゃくちゃにされていたのも、マスカにされた分の死体がない事を誤魔化すためにしたって事?」


「そういう事。短時間で死体を滅茶苦茶にしたのは、既に憑依しているマスカだろうな」


あの霊安室にマスカが潜んでいたのならば、死体をバラバラにしてしまう事など容易く、朝飯前だろう。


だが──


「……ただ、決定的な証拠はまだない」


「まだ……って事は、これから掴むんだね!」


「分かっているじゃねぇか」


証拠を掴まなければならない。


二人は客室から出ることにした。


 

向かったのは隣の一三三号室だった。


「ごめんくださーい!」


リュクレーヌは重厚なドアをこれでもかというくらい無作法に叩きつける。


「リュクレーヌ、どうしてマグネティカさんの部屋に?」


「ん?まぁ見てろって。すいませーん」


再びドアは叩かれる。

だが、部屋の主であるマグネティカから返事は無い。


「やっぱりあなたが犯人なんですかー?」


「ちょ、ちょっと……」


これでは埒が明かないとリュクレーヌは挑発するような言葉と共にドアを叩き続けた。

すると、ようやく部屋の中からドアの方へと足音が近づき、鍵がカチャリと回る。


「何の用だ」


アルティムは随分と不機嫌な表情でリュクレーヌを見る。


休み中であったはずのところを無作法な物言いで起こされたのだから当然だろう。


「こんにちは。いやぁ、マグネティカさん船酔いが酷いと言っていたので、ほら、酔い止めを持ってきました!」


悪気の無い笑顔でリュクレーヌは黒い粒のようなものを手のひらに載せて見せる。


「悪いが、酔いはもう収まった。これは要らない」


「あぁ、そうでしたか。まぁ、お大事になさってください」


リュクレーヌはアルティムの肩をぽんぽんと二度叩くと、案外あっさりと引き下がり「では、失礼します」と言って部屋を後にした。


 

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