通信装置と危険

再び部屋に戻ると、リュクレーヌは自身の旅行鞄を漁っていた。


派手な色のシャツにくるまれた、長方形の機械を取り出す。


装置の真ん中は正方形の画面のようになっていた。

フランがその画面を覗き込むと、真ん中には豆粒のような点が光っていた。


「それ、何?」


「通信装置だよ。ブラーチに作ってもらったんだ。念のため持って来ていてよかった」


ブラーチお手製の通信装置は、発信器の居場所を受信して、リュクレーヌに教えてくれるものだった。


「いつの間にそんなものを」


「仕込んだのは、マグネティカさんの肩を叩いた時だよ」


「という事は、マグネティカさんが犯人なの?」


「うーん、今は、な」


意味深な物言いをした途端、豆粒のような点滅が赤色に変わり、画面上を泳ぐように移動する。


「おっ、奴さんが動いたみたいだ。俺は奴を追う」


「僕も行くよ」


「いや、だめだ。向こうが通信装置に気づいたらこれが罠の可能性も否めない。そうなったら共倒れの危険だってある」


ぴしゃりと言いきられた。

確かに、ここで二人が行動を共にするリスクはあった。


リュクレーヌは鞄からもう一つ、通信装置を取り出して、フランに手渡す。


「装置の予備がある。これをお前に預けておくよ。この反応が一定時間止まったら合流しよう」


「分かった……」


不安ではあったが、もう犯人は分かっている。

それだけでも心は多少軽い。


それに、マスカの仕業となれば、自分はアマラだ。

戦えばいい。

フランは腹を括って、部屋で留守番をすることにした。


 

部屋から出て、リュクレーヌは通信機とアルティムの位置を把握し、尾行した。


「さて、さて……どこへ向かうのか」


アルティムが曲がり角を左折する。リュクレーヌも後を着けた。


ところが、そこには既にアルティムの姿は無く、着用していたジャケットだけが放り出されていた。


「何っ!?」


反応はここで途切れている。

辺りを見渡すも、アルティムの姿はすでにない。


いや、それどころでは無い。


背後から嫌な気配を感じる。


背中にじわりと汗がにじむ。

おそるおそる振り返ると、そこには、爛れた皮膚の化け物達がリュクレーヌを取り囲んでいた。


「うわあああああっ!!??」


予想もしない突然の状況に、リュクレーヌは意識を手放してしまった。


 

部屋に一人取り残されたフランはベッドの上、白いシーツにくるまった状態で発信器を見ていた。


実際の時間は分からないが、もうずいぶんと時が経った気がする。


その時、一定の速度で動いていた液晶上の点は、動きを止めてしまった。


「反応が止まった?」


リュクレーヌの言われた通り、部屋から出る。


すると、隣の部屋からも一人の人物が出てきた。

ポールだ。


「あれ?どうしたんですか。緊急時以外は部屋から出ないようにとお伝えしたはずですが」


「あっ、すいません……。リュクレーヌが帰ってこなくて探しに行こうかと思って」


「あぁ、そうでしたか……」


なんとか誤魔化す。


するとポールは考え込むように厳しい表情を見せて黙り込んでいた。


「……アクリウスさん?」


フランが問いかける。が、ポールは返事をしない

「あの……あっ!?」


問いかけも空しく、ポールは、隠し持っていた酒瓶でフランの脳天を殴った。


──そんな、どうして?犯人はマグネティカさんのはずだったのに


自身の油断を呪いながら、フランも意識を失った。

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