知っていたけど

収拾のつかない様子にフランがクレアを慰める。


「でもっ!」


「そうだよ、クレア。俺は君には何の恨みもない」


例え、彼女が自分の心を砕いた冷徹な人間の娘だろうと関係が無かった。

リュクレーヌ自身も、クレアには恨みも憎しみも抱いていないと断言した。


そう、クレアには。


「……父にはあるんでしょう?」


「まぁ、な……でも、君の事は良い友人だと思っている。親父さんがあの人だってことも最初から何となく気づいていたよ」


流石は名探偵といったところか。

クレアがアドミラの娘だという事は見当がついていたという。


「どうして……?」


「ほら、初めて会った時に俺の名前が親父さんの犬の名前と同じだって言っただろ?」


「あ……」


「自分でも珍しい名前付けたなって思っているから、偶然じゃないと思ったんだよな」


リュクレーヌとクレアが初めて対面した日、確かにクレアはリュクレーヌの名を聞き、「父の飼っている犬の名前」であると言った。


まさか、と、そんな事はただの偶然だと思っていたフランは大層驚いた。


アドミラが、リュクレーヌに探偵事務所を持たせて配下に置いた、それを彼は娘に「犬を飼った」と言ったのだろう。


誰が、この事実に気づいただろうか。


だが、その段階ではまだ、クレアの素性は確証までは届いていなかった。


「確信したのは君がガーディアンだって言った時だよ。その時苗字を聞いて分かった」


ガーディアンだと明かした時、クレアは自分のフルネームを名乗った。

ファミリーネームとガーディアンに所属していることから、全てが確信へと走り出したのだった。


「けど、だからどうしたってわけじゃないだろ?」


「うん……そうね」


「本当に気にしなくていいからな。クレアは俺にとって頼りになる友人だ!」


だが、リュクレーヌのクレアに対する態度はそれから特に変わる事は無かった

。今日まで、そしてこれからもクレアの存在は変わる事が無い。


「うん……」


クレアは泣き腫らした目を擦りながら、小さく頷いた。


「さぁ、もう夜も更けたことだしお開きでも良いんじゃないか?」


話したいことは話しきった。

宴も酣というようにリュクレーヌは解散を言い渡す。


「あぁ、そうだな。随分と長居してしまった」


「邪魔したな」


夜の闇に、皆が、それぞれの場所に帰っていった。

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