助手の望みは

自分のせいで、自分が動けなかったからリュクレーヌが死んでしまった。


「あ……ああああああっ!!!!」


頭を抱えて絶叫する。

目の前で身近な人物が死ぬのはこれが二度目だった。


また、自分のせいで、自分が何もできなかったせいで人が死んだ。


こうならないためにアマラになったんじゃないのか?


何のために、アマラになったんだ?


アマラなのに、誰も救えていないじゃないか。


自分を救ってくれた恩人すら──


「リュクレーヌ……」


躰の損傷とは裏腹に、安らかに眠るリュクレーヌを見つめた。

この人を救えなかった。


悔しい。


どうして彼が死ななきゃならないんだ。


どうして、自分なんかを庇って死ななきゃいけなかったんだ。


──お前が心から望んでいることはなんだ?


最期は穏やかに笑ってそう訊いた。


「僕の、望み……」


マスカを救うというのはフランの望みではあるが、元々はリュクレーヌに与えられた仕事だ。


ではフラン自身が、アマラになった理由。


リュクレーヌと共に闘い続ける理由。


マスカを救うという理由の根源にあるものは何だ?


「父さん、母さん……兄さんを……リュクレーヌを……」


フランを突き動かす原動力──すなわち望みは──


「大切な人を、護りたかった!」


フランが後悔と共に涙を流しながら叫ぶ。


救済と加護。


この二つが彼の根源だった。

 

フランが望みを叫ぶと、スチームパンク銃が突然、太陽のように眩しく光った。


「何だっ……これ!?」


閃光はみるみるうちに強さを増し、フラン自身も目を開けられない。


「ウワあああああっ!」


マスカは視覚的なダメージを負ったのか、機械音混じり奇声を上げのたうち回る。


「っ……?」


光が少し弱まった頃合いを見て、フランはゆっくりと目を開ける


「これは……?」


手に持っていたスチームパンク銃はマスケット銃へと変化をしていた。


それだけではない。フランが持つマスケット銃と同様のものが、百近く宙に浮き、ずらりと並んでいた。


まるで、無人の兵隊のようだ。


フランが銃を構えようとすると、百本もの銃も同様の動きをする。


「よく分からないけど……こうするしかない!」


手持ちのマスケット銃を二体のマスカに向ける。

全ての銃口が彼女らに向いた。


そして、引き金を引く。


発砲。


マスケット銃から放たれた幾百もの弾丸がマスカに打ち込まれる。


「ウワあああああっ!!!うあああああ!!!」


銃弾を受けた二人のマスカは悲鳴をあげる。


痛い、やめて、酷い──フランに抗議をするように。

だが、フランは攻撃を止めない。


──今までだったら手が止まっていたかもしれない。リュクレーヌが、あの質問をしなかったら、自分はまた迷ったかもしれない。


自分の望みが明確になった少年兵は強かった。


──だけど、もう迷わない!


「僕は、君たちが何と言おうとマスカを──人を救うんだ!」


決意と共に、一際強い弾丸が放たれた。


マスケット銃百本分の光を放った銃弾は二体のマスカを貫き、爆破する。


マスカは断末魔を上げ、消滅した。

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