探偵の遺した質問

──あぁ、まずい。このままじゃ死んじゃう。


目の前に砲弾が見えた時フランは悟った。


──でも、もう


諦めて瞳を閉じた時だった。


「……あれ?」


痛くない。


当たるはずだった砲弾が一つも当たっていない。

一体何が?とフランは目を開けた。


「く……そっ。痛ってぇ……」


「リュクレーヌ!?」


目の前には砲弾を喰らい、フランを庇って重傷を負ったリュクレーヌが居た。


腹に大きな穴を空け、傷口と口からは血が流れ、床には紅の水溜りができていた。


「はっ……無事か?フラン」


それでも、リュクレーヌはフランが無事であることを確認すると優しく微笑んだ。


「無事か?……って、リュクレーヌ!」


致命傷だ。

身に着けていたコートやジャケットはおろか、全身血塗れでズタズタなのに、リュクレーヌは笑った。


「ははっ……大丈夫だって。俺は……死なねぇ……っ!」


刹那、リュクレーヌの身体が地面へと倒れた。


「!?ちょっと!」


フランが慌てて駆け寄る。


「……とは言え、ちょっとこれは痛てぇなぁ……」


傷口を抑えながら、呼吸を荒げてリュクレーヌは笑顔を歪ませた。


「っ……僕のせいで」


──僕のせいだ。僕がマスカの口車に載せられて闘わなかったから。


フランは何もできなかった自分を責めた。

自分のせいでリュクレーヌが死にそうだったという事実。


自念の責に駆られる彼をリュクレーヌは察して、ふわりと優しく声をかける。


「……なぁ、フラン俺の我儘に付き合ってくれて、いつもありがとな」


「こんな時に何言ってるんだよ!」


これ以上優しい言葉をかけないでくれとフランは叫ぶ。


話すたびに傷口が広がる。口から流れる血も止まらない。


「お前はいい奴だよ。状況が理解できて、気が利いて……」


それでも、リュクレーヌは続けた。


「でもな、お前自身がやりたい事が分からなくなるんだ。もしかしたら俺が振り回しすぎて、お前がお前じゃいられてないんじゃないかって……」


「そんな事ない!」


確かにリュクレーヌは自由奔放で何考えているか分からないけど──


それでも、フランが彼に従い共に過ごすのは自分の意思だった。


リュクレーヌと一緒ならマスカが救える。


そう信じていたから。


「僕なんか、大丈夫だから……もう、喋らないで」


だから、今は彼に生きていてほしい。


「じゃあ……最期に一つだけ」


その願いを聞き届けたリュクレーヌは最期に問う。


「フラン、お前が心から望んでいることはなんだ?」


フランの望み。彼が何を想い、何の為に戦っているのか。


リュクレーヌの言う『仕事』とは関係なく、フラン自身の望みを問う。


「僕が……望んでいる、事?」


呆然とするフランをよそに、リュクレーヌはゆっくりと微笑み──そのまま動かなくなった。


「……リュクレーヌ?」


フランの呼びかけにも返事をしない。


まるで、人形のように眠ってしまった。


「ねぇ、返事して!ちょっと!」


躰を揺さぶっても応答もそれどころか反応すらない。


「嫌だ……嘘だ……僕のせいで……僕が……」


──殺してしまった。


フランの頭にはその事実だけが浮かぶ。

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