沈黙とフルコース
「……」
珍しく怒りを見せたリュクレーヌの剣幕に押され、ブラーチはフリーズしたように黙り込む。
「……悪い。言いすぎた」
流石に申し訳ないと思ったリュクレーヌは軽く頭を下げて謝罪した。
「……」
「ブラーチ?」
それでもブラーチは喋らない。
沈黙を貫き通している。
リュクレーヌが話しかけても返事がない。
「……」
「おい、悪かったって」
二度目の謝罪。
それでも言葉は返ってこない。
「……」
何かがおかしい。リュクレーヌは少し考え込む。
──あ、もしかして
ブラーチの性格を加味して、一つの可能性が浮上した。
「……黙ってろ、って言ったから喋らないの?」
浮いた可能性をブラーチ本人に投げかける。
すると、ブラーチはこくりと頷いた。正解だ。
「そういう意味じゃねぇよ……」
リュクレーヌはあきれ顔になる。口論後に友人が口をきいてくれなくて焦ったのだ。
「いやぁ、お前はからかい甲斐があるな」
口論の相手は無事、口を開いたが。
リュクレーヌは視線をブラーチから離して、こぼす様に小声で呟く。
「くそ、性悪マッドサイエンティストめ」
「聞こえてるぞ」
零れた愚痴は、不覚にも本人に届いた。
と、口論になりかけたところだった。
「お待ちどうさま―!」
タイミング良くキッチンから、フランが盆に一つの大皿と多数の小皿を載せてやってくる。
「おおー!来た、きた!」
待ちに待った、鶏肉のフルコースだ。
「右から、ゆで鶏、グリルチキン、揚げ鶏です」
大皿の上には、ふっくらと艶めくゆで鶏、こんがりと香ばしく焼かれたグリルチキン、そして、カラッと揚げられた鶏肉が並んでいた。
うまそう!とリュクレーヌはフォークを構える。
だが、ブラーチは大皿の方をじっと見つめて、何やら不思議そうな顔をした。
「……?味が付いてないようだが?」
大皿のメインディッシュは、シンプルに調理されたもので、スパイスやソースの気配が無い。
味のないフルコースなんて事は無いだろう。
ブラーチの指摘に気づいたフランは慌てて「あっ!」と声を漏らす。
「それはね。セルフサービスなんだ。これ」
そう言って、小皿に添えられた調味料を指す。
ビネガーに唐辛子を加えたピリ辛チリソース、ハーブソルトにカレー用のスパイス、甘辛いこってりとしたソースに、香味野菜をすりつぶした野菜ソース。
「これを付けるという事か」
「そういう事!あと、ゆで鶏のゆで汁で、玉子スープ作ったよ!」
「やったー!うまそう!」
中くらいのお椀には澄んだスープにふんわりと浮く黄色い卵。
鶏の臭みもスパイスで消したのだろうか。嫌気が無い香りが湯気と共に舞い上がる。
鶏肉のフルコースは、骨の髄まで余すことなく堪能できるものだった。
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