5.フラワームーン

お詫びチキン

約束は今日も果たされる。


浮気調査の一件からは既に、ひと月が経とうとしていた。

ルーナ探偵事務所には客人が一人、来ていた。


「楽しみだな、鶏肉」


客人は年季の入った白衣を身に纏い、来客スペースの皮張りのソファに座っていた。

そして、ローテーブルに置いてある皿の前でフォークとナイフを構えている。


医者、ブラーチ・スコティニア。その姿はまるで料理を待つレストランの客のようだ。


「そういえばブラーチ好きだったよな。鶏肉」


「あぁ、煮ても焼いても何にしても美味しいからな」


いつからルーナ探偵事務所は料理店になったのだろうか。


そんな疑問をキッチンで調理中のシェフ、フランは抱いているだろう。


前回の事件でブラーチと交わした約束。フランの料理食べ放題。

囮捜査の協力の為ブラーチに出した条件だ。

ブラーチはここぞとばかりにカードを切る。


本日のオーダーは、チキンのフルコース。

ブラーチの好物である鶏肉をふんだんに使った料理を注文した。


「調理は面倒臭そうだけど」


「これくらい良いだろう。こっちは襲われかけたんだ。」


「その節は悪かったって」


「それに、わざと面倒にしているんだ」


わざと面倒なメニューを頼んだ。これが何を意味しているか。


「もしかして、何か分かったか?」


極秘の話をするためだ。


「あぁ。今日はそれを伝えに来たんだ」


「流石。仕事が早いな」


リュクレーヌはブラーチの方に指をパチンと鳴らした。


「フランが飯作っているうちに終わらせよう。手短に頼むぞ」


リュクレーヌは急かす。フランに聞かれてはまずいのだ。

極秘の話は、フランに関する事だから。


「あぁ。まず、前回の戦闘時にフランの弾丸とクレアの弾丸を採取した」


「え!?いつの間に?」


「お前が見ていないうちに、だ」


「いやー、それは気づかなかった」


先月、マスカとの戦闘中に、ブラーチはどさくさに紛れてアマラの二人の弾丸を拾っていた。


その後、独自に調査をし、回析結果がつい先日出たという。


「それで、何か違いはあった?」


期待を込めた声色でリュクレーヌは訊く。


「成分は全く同じだ。原材料に含まれている仮面の配合率も同じ」


「じゃあフランもクレアも同じもん使ってるってことだよな」


「あぁ、その通り」


結果はたいしたものでは無かった。

フランの弾丸は他のアマラも使っている汎用品。


「アマラ軍から支給されているものと全く同じって言う事か?」

 

「成分は、な」


クレアの弾丸とは違いが無かった。成分上は。


「成分、は?何か他に違いがあるのか?」


ブラーチの含みがある言葉にリュクレーヌは顔を顰めた。

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