依頼人の証言

──何故、娼婦は逆指名をした?


──消えた死体は何処へ行った?


──オスカーはなぜ浮気をした?


そして、目を見開いたときには元の明るい表情で人差し指を立て、提案する。


「では、話題を変えましょう。何故、貴方は浮気なんてしたんですか?」


「は?」


他の疑問に話題を変える。

オスカーが浮気をした原因がきっとあるはずだ。

その原因が娼婦失踪事件に繋がっている可能性があるかもしれない。

 

「だって、おかしいでしょう?依頼を受けたとき、貴方は奥さんの事を本気で愛していると言っていました。それなのに浮気をするなんて……」


そう、オスカーの浮気は不可解なのである。

愛しているといった妻が居るのに、何故浮気をしたのか。

ミーナの浮気に対して抱いていた疑問が今度はオスカーに向く番だ。


こればかりは言い逃れも出来ない。

オスカーはゆっくりと、話し始めた。


「……妻を、愛しているというのは、嘘です」


「最初から愛していなかったと」


「違います!愛していたんです!でも、彼女の様子がおかしくて」


「服装だけで、愛情が変わったんですか?」


「違う!」


リュクレーヌの軽蔑を含んだ言い方にオスカーはムキになる。


「事故の後、彼女は命の恩人だと思って感謝してたんです。惚れ直しましたよ……ですが」


事故の件でミーナに感謝はしていた。だが、ミーナに異変があった。


「何処か、雰囲気が変わってしまったんです。今までとはまるで別人みたいに」


その話を聞き、リュクレーヌは「ふむ」と頷く。


「それが、怖くて彼女を愛せなくなってしまったんです。」


事故直後、香水や服装が変わる前に彼女の纏う雰囲気やオーラはガラリと変わってしまった。

オスカーはそれを恐れていたのだ。愛よりも恐怖が勝っていた。


「そんな時、知人に娼婦街を紹介されて……」


「手を出してしまったわけですか」


「えぇ……」


知人と共に娼婦街へ行き、人のいいオスカーは乗せられて娼婦に手を出してしまった。


その時は一度きりだと思っていたのに。


人の愛し方を忘れかけていたオスカーは何度か娼婦に手を出すうちに、やめられない依存状態へと陥っていた。


しかし、秘密がいつまでも続くとは限らなかった。


「ある日妻を娼婦街で見たんです」


娼婦街にミーナが現れたのだ。


「てっきり僕を付けてきたのかと、怖くて」


「だから、奥さんの浮気だという事にしてしまおうとしたわけですね」


自分の浮気の現場を押さえられるのが怖い。


妻が怖い。


恐怖という気持ちに負け、身勝手だとは思いつつも、ミーナから逃げるために、責任転嫁をしてしまおうとした。

卑劣な行為だった。

だが、それよりも一点だけ気になる事がリュクレーヌにはあった。


「一つ気になる事があります。貴方が遭った事故について、教えていただけませんか?」


オスカーが巻き込まれたという事故だ。


「あぁ……火災事故です。友人の家で酒を飲んで寝ていたんですが、友人の煙草の不始末で……」


「それは、災難でしたね」


「えぇ、辺りは火の海で、もう駄目だって思った時に、ミーナが来てくれたんです」


友人の家に泊まった日、火災が起きた。オスカーはミーナの助けによって命からがら逃げだすことが出来たのだ。


「あの、もういいですか?」


話すべきことは全て話した。オスカーはこれ以上もうここに居る意味は無いと思っていた。


「はい。本日のところはもう結構ですよ。お帰り下さい」


リュクレーヌも、それならば、とオスカーを帰すことにした。


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