依頼人への事情聴取

二人は事務所に帰るとすぐにオスカーに連絡を入れた。

もう一度、この事務所に招いて話を聞くために。


「探偵さん、事務所に来てくださいなんてどういった御用でしょうか?」


ソファに座る依頼人は、要件が分からず少し苛ついているようだ。

だとしたら、早く本題に入ろう、とリュクレーヌは話を切り出した。


「実は、オスカーさんに大切なお話がありまして」


大切な話だと告げると、オスカーは表情を少し明るくした。


「もしかして、浮気相手の正体が分かったんですか?」


「いえ、残念ながらそれは分かりません」


ミーナの事は分からない。

そう告げると、オスカーは「なんだ……」と呟き残念そうに俯いた。


「では、話とは?」


浮気調査の決定的な証拠とまではいかなくても、手掛かりくらいは掴めたのではないか?

オスカーは訊こうとするが、リュクレーヌはため息をつく。


「オスカーさん。話があるのは奥さんの事ではなく、貴方の事なんです」


「僕?」


「えぇ。貴方は僕に浮気調査の依頼をしてますが、自分自身も浮気をしていますね」


「なっ!?」


浮気をしているのはオスカーである。本人に対してはっきりと言い切る。

すると、オスカーは表情をみるみるうちに歪ませた。


「言いがかりだ!そんな事を言われる筋合いはない!証拠も無いだろう!」


そして、叫ぶ。自分が浮気をしている証拠を見せろと。


「証拠、ですか。それならありますよ。順を追って説明しますね」


一方、リュクレーヌは余裕だ。証拠ならある。

だが、いきなり証拠を言われても混乱するだけだろうと考えて、今回の件を一から話し始めることにした。


「まず、僕たちは娼婦街で聞き込みをしました」


「まぁ……現場ですからね」


「そこで、分かった事が、貴方が娼婦街に出入りしていた事なんです」


「それはっ……ミーナが娼婦街へと向かったから僕も後をつけて」


「へぇ、娼婦によると貴方は常連客のようですが?」


「うっ……」


とっさの発言における綻びは見逃さない。リュクレーヌは鋭く指摘した。


「もっと明確な証拠もありますよ。貴方が娼婦と自宅で事に及んだ所」


自宅に連れ帰った娼婦を抱いていた一部始終。窓とカーテン越しだが、全て見ていた。


「リュクレーヌはほとんど見てなかったけどね」


尤も、一部始終を見ていたのはフランだが。


「……全部、お見通しなんですね」


「えぇ」


ようやくオスカーの荒れた口調が元の落ち着いたものに戻った。

落ち着いたというよりも、弱々しいものだった。

図星を差されて、観念したのだろう。


だが、本題は違う。オスカーが浮気をしていたこと自体が問題なのではない。


「ただ、問題はここからなんです」


「と、言いますと?」

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