娼婦Sの証言
一夜明け、二人は聞き込み捜査を行った。
時刻は黄昏時。場所は、娼婦街の娼館。
「え?失踪?」
聞き込み相手は勿論娼婦だ。
彼女はシェリーという娼婦だ。
シンプルだが、やはり露出の多いドレスに、リュクレーヌは目のやり場に困っていた。
「えぇ。昨日こちらの娼婦が倒れて、その後行方不明になったんです」
フランが起きた事件を大まかに説明する。すると、シェリーは深刻そうに俯いた。
「また……なのね」
「また?」
心当たりがあるような態度に、リュクレーヌも食いつく。
「えぇ、最近娼婦が失踪しているの……これが、七人目かしら」
何という事だろうか。
既に失踪事件は起きていた。それも複数件にわたって。
「どうして警察に通報しないんですか?」
これだけの事件であれば、どうして?とフランが問う。
「私達、娼婦よ?警察がまともに取り合ってくれるなんて……」
娼婦の社会的地位は底辺に値する。
殺人事件ならともかく娼婦が数人失踪しただけ。
警察がまともに捜査をしてくれるだろうか?
だからこそ、藁にもすがる思いで、シェリーはリュクレーヌに全てを話そうと顔を上げた。
「失踪する娼婦には共通点があるの」
「何ですか?それは」
「ある、一人の男の相手をした娼婦という事」
昨日、失踪したのはオスカーの浮気相手。
となると、一人の男は──間違いない。
「その人って……真面目そうな……えぇと……」
フランが説明に困っていると、リュクレーヌが懐から写真を取り出す。
「この人、じゃないですか?」
写っているのはオスカーの顔。
一体そんなものいつ撮ったんだ、とフランは思った。
しかしリュクレーヌはそのまま、写真をシェリーに見せて問う。
「あぁ!そうです。この人です!」
ビンゴ。
失踪事件の共通点となる客はオスカーだった。
「という事は。オスカーさんの相手をした娼婦が失踪しているって言う事?」
「そういう事になる」
理由まではわからない。
だが、オスカーが何かの鍵を握っているのは確実である。
「そういった噂が娼婦の間でも広まっていて、誰も彼の指名を受けようとは思わないんです……ただ」
「ただ?」
「娼婦の方から、彼を逆指名しているんです」
不気味そうにシェリーは告げる。
一夜を共にした娼婦は行方を眩ませてしまう。
そんな客に自ら抱かれようとするか?
リュクレーヌも「はて?」と首を傾げた。
「娼婦の方から逆指名?変ですね……失踪すると分かっているのに?」
「はい。変なんです。失踪事件怖いよねって話をしていた娼婦がその日、彼を逆指名してましたから」
失踪事件を知らない上での逆指名ではない。
これでは自ら失踪事件に巻き込まれようとしていると言う事か?
「えぇ……どういう事なんだろ?」
フランはめまぐるしい展開に頭を抱えた。
「……オスカーさんに直接聞いた方が早いかもしれないな」
失踪事件の共通点となる彼なら何かを知っているかも──いや、隠しているかもしれない。
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