マスカレイド・ラビリンス

宵之祈雨

プロローグ

スーパームーン①

──自分以外の誰かに転生したいと思ったこと。ありませんか?

 

転生。

そんなもの、おとぎ話やファンタジーの世界だけのご都合主義だ。

現実にはあり得ない。そう、思っていた。


「そんな貴方に嬉しいお知らせです!」

黒髪にマントの若い男は大層嬉しそうに言う。


「この仮面を付けると死後、好きな死体に転生する事が出来ます」

そんな都合のいい魔法の様な仮面、あるはずない。


「貴方は初めてのお客様ですからね。特別サービスで無料にしますよ!」

絶対に怪しい。直感で思っているのに。


「さぁ、契約しますか?」

欲しくて、欲しくてたまらない。これが──これさえあれば。

 

最期に見た父の姿は、叶わない夢を実現させてくれる仮面を付けているところだった。


あれが、悪魔との契約だなんて。

 

 


一八九三年。コンセルタ家にて。


コンセルタ家は家業で農業を営む、ごく一般的な家庭だった。

父、母、三人の子供たちの五人家族。

決して裕福とは言えないが、ささやかな幸せがあった。


「……お母さん!?」

母が、病気で倒れるまでは。

 

病気で倒れた母は、以降寝たきりの生活を送る事になった。

医学では治せない原因不明の病魔に蝕まれて、日に日に弱っていくだけだった。


「お母さん……死んじゃうのかな」

「そんなわけないだろ!」

「大丈夫だって!」

兄弟たちは皆、寂しかった。母が居なくなってしまうのでは。と案じていた。


父も察していた。なんとか模索していた。母の命を救う方法を。


そして手を出してしまった──悪魔との、禁断の契りに。

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