悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇
藍生蕗
第1話 ぼーっとしてたから
学園の卒業式の後である送別会のこの日、悪役令嬢と影で揶揄されていた公爵令嬢が、皆の前で断罪されました。
……正確にはされています。今現在……
私は会場の端で大勢に囲まれ膝をつく、かの令嬢を人垣の外から眺めておりました。
実は我が家はあの家の分家筋。かと言って気位の高いあの方は子爵家の私の事なんて歯牙にも掛けていませんがね。
実際一年間学園で過ごして、一度も話した事もありません。存在すら認識されていない可能性大です。
クスクスと下品な笑い声に囲まれる中、あのご令嬢────フィラデラ様はどんな表情をされているのか。背後で、しかも俯けるその顔はこちらからは当たり前ですが見えません。
「フィラデラ、お前には失望した。今後一切私とルビィの前にその顔を見せるな!」
息を飲む会場の雰囲気も端までは伝わって来ないものです。流石に動けませんが、心の中では言わせて貰います。
王子、お前────
チラリと王子の隣に並ぶ女子生徒に目を向けます。
王子は公爵令嬢である婚約者を捨て、男爵家出身である彼女と恋人なのです。だから彼女を公の場で断罪するのは、今後二人の仲を深めるのに都合の良い話なのでしょう。ですが────
権力を私物化するな! 勘違い野郎!!
もう脳内での暴言なのでね、好き勝手言わせて貰いますよ。
って言うか私あの男爵家のお嬢さん嫌いなんですよ。なんですか、あの人。誰彼ともなく親しげで。以前、そんな馴れ馴れしくされる謂れは無いと、首を傾げただけで、泣きながら王子にチクリに行きましたからね。勿論私は逃走しましたよ。三十六計逃げるに如かずです。
あんな感じなので、男子生徒しか友達しかいなくて、それが理由で女子生徒から敬遠されてるんですよ。
王子が味方なので誰も何も言いませんが、皆思うところはあると私は踏んでいます。王子見る目無いな────とか。
そんな私なので、どちらかと言うと気持ちはフィラデラ様寄りなんですよね。
あの方はよく癇癪起こしておりまして、それを取り巻きが怯えている様を見た事があります。
まあ怖いですよね。正直近寄りたくありません。
だけど……
ひとしきり憤った後の彼女の顔は悲しそうで、嫌いになりきれないものがありました。遠目ではありましたが、私はフィラデラ様を応援しておりましたよ。
王子はこれで卒業ですから、フィラデラ様と一緒に在学生となるルディさんを配慮してのこの所業なのでしょうが……
正直あまり正義は感じませんね。いじめに見えます。
「トリア・サンディーン」
「ひゃっ?!」
突然名を呼ばれ、そしてそれに反応した私に会場の視線が一斉に刺さります。
慌てて口を塞ぎますが、どう見ても時既に遅し、名前を読み上げていた侯爵令息が訝しげな顔でこちらを見ています。
……しまった。一人の世界に入り過ぎた……
私は背中に嫌な汗が流れるのを感じました。
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