第3話 クロスケは嘘をつく
だけど、証拠を集めるのは、正直心が折れる作業です。
確実に病みます。
業種柄、車で出勤するので、休日出勤前に、ボイスレコーダーとデジカメを仕込みました。
が、あえなく失敗、どうやら、パチンコ屋の駐車場で車を乗り換えてるらしい、だから、休日出勤は10時頃、家を出て行くんだ。
相手の女はバツイチで、実家暮らし、だから、女の車で行動してるんだね。
でも、それじゃあ、証拠が取れない、尾行するのはさすがにリスクが大きすぎるし、どうしよう。
ダメもとで、出勤の日も同じように仕込んでみたら、ビンゴ!
ボイスレコーダーがいいお仕事してくれましたよ。
帰宅中はいつも女と電話中だったんですね、だからカケホーダイにこだわってたんですね、なるほど。
女がいつも食事してホテルにいくだけじゃ、つまらない、たまには旅行でも行きたいよー、って、でも、やりたい盛りの夫は、じゃあさ、あそこのホテルのメンバーズカード、いっぱいになるまで頑張ったら、どっか行こうか?
はい、アウト! 弁護士に確認したら、ラブホのメンバーズカードって、常連さんってことですね、だったら、その会話と出入りする写真が二回分あれば、十分な証拠ですね、とのことだったので、写真とりましたよ。
そこのホテルまで行って、下見、駐車場の出入り口、ホテルへの出入り口、フロントまではさすがに行けなかったけど、この不審な行動、絶対カメラで従業員に見られてるよね?
そんな思いまでして、当日はホテルの入り口から隠れるようにレンタカー借りてさ、出入りする写真とホテルの駐車場に止まってる女の車、
写真撮るまでは、なんかさ、ハイになってたから、やったぜ! みたいな達成感があったから良くわかんなかったけど、家に帰って写真を見ながら子供の顔見たら、何やってんだろ……って、泣いたよ、初めて、もうね、顔ぐちゃぐちゃ。
そんな時に、いつも通りに夫が帰ってきて、薄暗くなっていく部屋の中で電気も点けずに座り込んでいる私を見て、びっくりしている。
「どうした? 具合でも悪いのか?」
灯りをつけて、やっと私が泣いていたことに気付いたらしい。本当はもっと、段取り踏んで話たかったけど、もういい、もう無理。
「今日、どこに出かけたの?」
「えっ、いつも通りお店で仕事してたけど」
「嘘!」
「……」
「お店に電話したら、今日は来てないって黒田君が言ってたよ」
「あー、それは、オレ、本来なら休みじゃん、だから、客からの電話は取り次がないように言ってあるんだよ」
「客? 黒田君、私の事知ってるよね、名前名乗ったし」
「…ごめん、ちょっと仕事に詰まっちゃって、気晴らしにドライブしてたんだ、…でも、お前だって子育てで大変なのに自分だけ息抜きって、言いづらかったから、ごめんね」
やっぱり、本当のことは言わないんだね、もう、あんたのことなんか、愛想が尽きたと思ってたけど、……本当は、認めて謝って欲しかったんだな、自分の気持ちさえわからなくなってるんだ……涙が止まらないよ……
「なんで、そんなに泣いてんだよ、産後で不安定になってんのか、悪かったよ、一人で出かけて、でもさ、俺だって家族のために休みも返上して頑張ってるじゃん、お前もちょっとは俺を支えてくれよ、ホント、管理職なんかならなきゃ良かった、お前にはわかんないだろうけど、俺だって大変なんだよ」
バシッ! 気が付いたら夫の顔を引っ叩いてた。
「な、なにすんだよ、いてーじゃねーかよ、自分だけ大変だと思ってんじゃねーよ!」
無言でスマホの画面を見せてやったら、キョドってやがんの、ざまあ!さっきまでの勢いどこ行った。
「自分だけ大変、ふざけんな! 休日に女と食事してホテル行って、疲れたから優しくしろとでも言ってんのか、このクサレ男が!」
夫は、私に叩かれた顔を押さえながら無言で家を出て行った。
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