第2話 兆し

「本当にアンドレ様は素敵な方でいらっしゃるから、エミリアが羨ましく思うこともあるけど、他にも素敵な方はたくさんいらっしゃるわよ、ねえ、マリエール 」


 「そうね、シェリルの婚約者のミハイル様も落ち着いた大人の雰囲気で素敵だしね 」


 いたずらっぽく、マリエールが笑う、本当に私達より7歳上でいらっしゃるからか、優しい大人の雰囲気をお持ちのとても素敵な方だった。


 「そりゃあ、あれだけ年上だったら大人にも見えるでしょうし、もう、爵位を継いでいらっしゃるからおねだりすればなんでも買ってくれるんじゃないの? シェリルも上手くやったわよね 」


 なんでしょうか、言葉の端々にトゲを感じてしまうのは。


 「いやあね、おねだりなんてしないわよ、まだ私は婚約したばかりだし 」


 「でも、プレゼントはもらってるのでしょう? 何をもらったの?」


 「んー、ベルファムで指輪を買って下さるとはおっしゃっていたけど、これから選びに行くのだし 」


 ベルファム! 王都でも一番人気の宝飾店ですが、お値段もかなりお高い事で有名なのです。


 「ほーら、自分はちゃっかり指輪なんか買ってもらうんでしょう、いいなあ、私もベルファムでお買い物したい! お父様に言ったら私なんて怒られたのにさ 」



 「それは、仕方がないんじゃないかしら、私だって普段使いの指輪を買う訳じゃないのよ、結婚の証の指輪だからよ 」


 なんとなく、納得していない様子のアマンダですが、今度は私に話を振られます。


 「そういえば、エミリアの指輪はどこで買うの? やっぱりベルファム? 」


 あー、何となく言いづらいんですけど、


 「あ、あの、私は、アンドレ様がカイゼルという方にご注文されているそうなので、お任せしております 」


 「カイゼル! って、ベルファムのトップデザイナーよね 」

 

 「あっ、そうなの、私、あんまり詳しく無くて、デザイン画だけ見せていただいて、とても可愛らしかったので、それでって、お願いしたんです 」


 エミリアって、本当にこういう事に疎いわよね、そんな価値もわからないエミリアよりも私のほうがオーダーメイドにふさわしいのに、もったいないわね。


 そう、そうよね、エミリアなんかより、私のほうがアンドレ様に、いえ、オルシアン家の奥様にふさわしいわよ、私だったら、どんなドレスも着こなしてみせるし、どんな宝石だってふさわしいもの。


 学園を卒業するまでは、お父様もお母様も自由にさせて下さったのに、今はお見合い写真が山のように積まれて、もう、うんざり、私は、ただ、ふさわしい人を選びたいだけなのに。


 ただ、私と並んで見劣りしない程度の容姿と、あとは自由にさせてくれて、好きにお買い物をさせてくれれば、こんな美人の奥様が手に入って、友達にも自慢できるのに、レベルの低い男ばっかりで嫌になるわ。


 学園の時も、何度も申し込みされたのだけれど、アンドレ様より顔がよろしくないか、お金を持ってないかばかりで、エミリアより美人の私がアンドレ様より劣る相手なんてかわいそうじゃない?



 だから、誰ともお付き合いしなかったのよね、正式なお付き合いはね。


 だって、おしゃれには金がかかるのよ、靴もドレスも帽子も一流の物じゃないとね、エミリアみたいに平凡な顔だったら持ち物も気にしなくてもいいのかもしれないけど、私だと、どうしても皆が注目しちゃうから、小物一つだって気が抜けないから、お小遣いが足りない時は援助してもらわないとね。 


……仕方がないわよね。美人でいるのも大変なのよ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る