第16話 お尋ね者が魔神を制す(前)
「ボス、俺がいきます」
隊列を掻き分けて前に進み出たのは、鮫に似た頭部を持った人型重機だった。
「先鋒はあいつか。はてさて、どんな立ち回りを見せてもらえるのかな」
俺が視線を低くすると敵の尖った鼻先が花弁状に開き、円筒形の砲身とリボルバー型に穿たれた穴とが覗いた。
「御自慢の骨とう品を穴だらけにしてやるぜ」
だみ声の悪態とともに、リボルバー型の穴から螺旋状に刻みが入った角が飛びだした。
「そいつがお前の武器か。いいだろう、相手をしてやる。……眩三、『パラソード』だ!」
俺が新しい武器名を口にすると、「了解だ」という応答と共に腰のポケットが開いてステッキ上の物体が飛びだした。
「どんな手を打とうと無駄だ。どこがいい?頭か?胸か?」
敵の砲身が回転を始め、バッドガイザーの指がステッキの柄にあるボタンに触れた。
「死ね!」
頭部の射出口から角のような弾が連射された直後、ステッキの先が傘のように開き、高速回転を始めた。バッドガイザーの新しい武器、『パラソード』だ。敵の弾は回転する楯にことごとく弾かれ、海へと落下した。弾切れを待って防御に徹しているとやがて、連射の音が途絶えた。俺は傘を閉じ、ステッキ型に戻った『パラソード』を腰に収めた。
「どうした、飛び道具はそれで終わりか」
俺は両腕を縮めてガードの構えを取ると、敵の体当たり攻撃を正面から受け止めた。
「今度はこっちの番だ」
俺は背中のコンテナから戦斧型の武器を取りだすと、敵の脳天に振り降ろした。
「――ぐわあっ!」
俺が肩のスラスターを噴射して飛び退った直後、敵の胸が開いて脱出ポッドが飛びだした。主を失った戦闘重機はバランスを崩し、火を噴きながらゆっくりと水面に崩れていった。
「どうにも埒があかないようだな」
あっさりと片付けた敵の背後から姿を現したのは、バラバスの一回り大きな機体だった。
「あいにくだが、俺はこいつのようにはいかんぞ」
バラバスは分厚い金属の胸板を誇示するかのように、俺たちの前で仁王立ちになった。
「面白い、どっからでもかかって来な」
「まずは小手調べだ、お尋ね者」
バラバスは俺の挑発にも動じず、ふてぶてしい笑いを返した。俺が立ち位置を変えずに様子をうかがっていると、敵の腹部にあるハッチが開いて中から鎖付きの鉄球が現れた。
「こいつはまた、随分とクラシックな武器のおでましだ」
「ふん、見た目で判断するのはよすんだな。侮っていると泣きを見るぞ。――そらっ」
バラバスの機体は鎖を掴むと、巨大な鉄球を易々と振り回し始めた。俺はバッドガイザーを二、三歩後ずさらせた。ひるんだわけではないが、鉄球が風を鳴らす音に警戒心が動いたのだった。
「――行くぜ!」
鉄球が大きく弧を描いた瞬間、俺は反射的にバッドガイザーを屈ませていた。次の瞬間、頭上を風圧が掠め、重い物が水中に没する気配があった。
「一撃目を外すのは命取りだぜ、旦那」
俺は体勢を立て直しつつ腰の『パラソード』を再び取りだした。柄の部分を回すとステッキの先が白く輝き、一瞬で長剣型のプラズマソードに変わった。
「勝負あったな、ボス!」
俺が剣を構えて隙だらけの敵に突進しようとした、その時だった。
「――うっ?」
何かが左脚に絡みつき、バランスを崩したバッドガイザーは毒の海に仰向けに倒れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます