第3話 悪徳島に進路を取れ
「聞こえるか、キャプテン。宝島らしき陸地が見えてきたぜ」
「ああ、ここからも見えるぜ。建物がみんな金色とは、悪趣味の極みだ」
俺とギランは、前方に見える人工島の放つ輝きに歓喜の声を上げた。
「近海上空を移動飛行要塞へ。貴艦は現在、『マイダスアイランド』の領空内にいます。着陸を希望する場合は、一分以内に申し出るように。返答がなければ敵艦とみなします」
人工島から放たれたと思しき警告の声は、女性だった。
「おっ、女が挨拶してきたぜ。それじゃあ一つ、ラブコールを送って見るとするか」
俺は相手の周波数に合わせるよう、機体に命じると着陸許可を申請した。
「こちらは飛行要塞バッドガイザーだ。乗員は三名。戦闘の意思はない。着陸許可を求む」
俺が呼びかけると、再び女性の声で応答があった。
「了解。貴艦の着陸を許可します。管制の指示に従って島の南西部にある第八ポートに着陸し、検疫と危険物のチェックを受けて下さい」
女性管制官の冷ややかな声にぐっときた俺は、よせばいいのに余計な言葉を発していた。
「もし俺たちが安全だと確認されたら、デートしてくれるかい?」
「そうね。あなたが明日の朝まで生きていたら、その時にもう一度誘って」
俺は艦内通信から漏れてくるギランの忍び笑いを聞き流しつつ、「上等だ。じゃあ早速ギャンブルの女神の膝に乗っからせてもらうぜ」と返した。
※
「オールクリアだお客さん。入国を許可する」
髭面の入国管理官はそう言うと、俺たちにゲートをくぐるよう促した。
「俺たちの『船』はどこに入れたらいいんだい」
「軍が管理する入国者用ドックで、出発する時まで預からせてもらう。それまでせいぜい観光を楽しんでくるんだな」
「大事な家をバラバラにしたりするんじゃないだろうな」
「あんなおんぼろ要塞、バラバラにするまでもないね。ざっと改めただけでわかるよ。昔よく見た、変形合体タイプの奴だ」
「じゃあどんな武器を装備しているかもご存じってわけか」
「ああ、大体はね。ちょっと見には大した武器はなさそうに見えるが、こう言う奴に限って見えないところに物騒な物を忍ばせてやがる。俺が見たところ、どこかに熱粒子兵器を隠してるな。だが内緒にしといてやるよ」
「そいつは助かる。武器を押収されたらこの先、旅がおぼつかなくなるんでね」
「ふん、どうせ路銀が尽きて一山当てに来たんだろ?同じ山師のなれの果てとしては「せいぜい頑張んな」とだけ言っておくよ」
「なんだい、ギャンブルに勝つ秘策を授けてくれるんじゃないのかい」
「そいつは自分で考えるこった。……一つだけ忠告させてもらうとすれば、そうだな、カード、特にバカラはやるな。胴元に勝った奴を見たことがない」
「じゃあルーレットか?」
「遊んで帰りたいなら、スロット程度にしておけ。ルーレットをやると思考を読まれる」
「思考を?」
「ああ。店によっては遊具がすべて人工知能で制御されている。おまけに店員も遊具とネットワークで繋がったアンドロイドの場合がある。客は店内に張り巡らされたセンサーで思考を読まれ、カモにされるってわけだ」
「なるほど、儲けるつもりで入っても、百パーセント身ぐるみ剥がされるってわけか」
「それでですめばいい方だ。最悪の場合、身体をバラバラにされてこの島の支配層の延命部品にされるのがおちだ」
「怖いねえ。覚えとくよ。ありがとう」
「もう一つだけ教えておく。どうしても勝ちたければ、メインの思考システムをいじることだ。だがそれは同時にこの島そのものに喧嘩を売ることにもなる。命が惜しくなきゃあ、試してみるんだな」
「別に命は惜しくないが、やめておくよ。喧嘩は嫌いなんでね」
俺たちはひげ面の入国管理官に別れを告げると、意気揚々と宝島のゲートをくぐった。
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