Episode11:テストケース
「なあ、
「――申し訳ありませんがお断りします。そうする
アメリカの首都、ワシントンDC。その中心部ホワイトハウスに隣接している連邦政府庁舎内にある、大統領警護官と呼ばれる専属SP達の詰所。
大統領であるダイアンの希望と
そこに降って湧いたのが大統領の肝入りで入職する事になったラミラだ。何といってもアメリカ初の女性大統領であるので、
そして彼女が職場で
他愛ない世間話から露骨に好みのタイプや趣味などを聞いてくる者まで様々で、今やラミラはすっかり職場の
特にそれが顕著なのが、今も素気無く拒絶したばかりの若い白人の警護官だ。確かレックスという名前だった。ラミラが入った当初から他の者達と反応が違った気がする。
「レックスのやつ、また振られてるぜ」
「もういい加減に諦めろって」
「むしろ素気無く扱われるのが癖になってるんじゃないか?」
周囲にいた他の同僚たちが今の光景を揶揄する。もうラミラとレックスのこの手のやり取りは日常茶飯事といった感じになりつつあった。つまりそれだけレックスは何度もラミラから
「言ってろ。俺は絶対に諦めないからな」
レックスは口とは裏腹にそこまで気を悪くした様子もなく同僚たちに宣言していた。それを聞いていたラミラは嘆息した。あの
いっそこの場で自分の
******
「ラミラ、最近あなたの職場で面白いことになってるそうじゃない?」
ホワイトハウス内にある大統領の私室。非番明けで夜間警護の任に就くラミラに対して、ダイアンが揶揄するような口調で問いかけてくる。ラミラは若干眉を上げた。
「……面白いこととは?」
「隠してるつもりでしょうけどバレバレよ。レックスからの熱烈アプローチ……どうするの?」
やはりその事だ。ラミラは顔をしかめた。
「……どうもしません。マスターから対処を禁じられているのですから」
「あら?
「え……?」
ラミラは思わず目を瞬かせた。ダイアンが彼女にしては少し楽しそうな口調と表情で笑みを浮かべる。
「何も難しい事じゃない。
「……! 本気で言っているのですか?」
ラミラは目の前の女の正気を疑う。
「確かに他の悪魔ならそうかもね。でもユリシーズから聞いたけどあなた達の『変身』って、他の悪魔の『擬態』とは根本から異なる力なんですってね」
ただ人間の姿になるだけなら他の魔族達にも可能である。それがダイアンの言ういわゆる『擬態』だ。所詮
自分たちの『変身』はコピーした対象と
遺伝子レベルまで変化させる代償として一度コピーした人間の姿以外には変身できなくなるが、それだけに今のラミラはどんな最新の科学的検査を以ってしても正真正銘の『人間』であった。彼女自身が変身を解かない限り見破る事は絶対に不可能だ(ニューヨークでは同族が一見間抜けな手段で見抜かれたらしいが)。
「今のあなたはあくまで『ラミラ・クルス』という
「……っ」
痛い所を突かれてラミラは唇を噛み締める。ユリシーズの眷属となった彼女にとって彼の命令は絶対だ。確かにこのままでは自分の態度が原因で
「
「それは、まあ……」
ラミラは渋々認めた。ニューヨークでユリシーズからなるべく
カルメン・ロドリーゴというこの女性は一言で言うなら「恋多き女」で、数多くの男性と交際及び
自身やユリシーズが望んだ訳ではない副次的なものではあるが、結果としてラミラには
ラミラは盛大に嘆息した。
「はぁ……解りました。もし彼が性懲りもなくまた誘ってきたらの場合ですが、その時は
「ええ、大変結構。それとまた誘ってくるのはまず間違いないから、ちゃんとデートの準備をしておきなさいね。うふふ、楽しみだわ。ユリシーズがラスベガスから帰ってきた時に面白い報告ができそうね」
ダイアンは上機嫌に笑って頷いた。そして内心で神妙に独りごちる。
(……思わぬ成り行きだけど、悪魔と人間の
代償を払う契約以外の方法で、悪魔とある程度でも友好的な関係を築ける余地がもしあるのだとしたら……今後の対悪魔の戦略において非常に重要な指針となるかも知れない。
ラミラを
(頼むわよ、レックス。何としてもラミラを
勝手にレックスの双肩に人類の行く末を託したダイアンは、心の中でこのデートの成功を誰よりも願うのであった……
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