Episode4:親睦会
今回の任務でもビジネスジェットを使って一路ラスベガスまで飛ぶ事になる。だが今回の任務では
なので広さは問題ではない。問題はDCからラスベガスまで『それなりの距離』があり、現地に着くまでには『それなりの時間』同じジェットに搭乗して一緒に過ごさねばならないという点だ。
それを気にしたのは男性陣、女性陣ともに共通していた。男性陣は主にビアンカと
そんな訳で(主にビアンカとルイーザの意思によって)任務に先駆けて、『RH』において顔合わせも兼ねた
「ようこそ『RH』へ! まだ初対面でかつここに来たのも初めての人が
『RH』のラウンジ。ここが地底深くとは到底思えないような高級ホテルもかくやというお洒落な内装と、棚に並んだ高価な酒類の数々。それに彩りを加えるお菓子やジュース、果物等もテーブルに所狭しと置かれている。
そんなラウンジ内の大きな丸テーブルに互いに向き合って座る
最初に立ち上がって音頭を取るのはルイーザだ。彼女はそう言って自分の好きな銘柄のウィスキーが並々と注がれたグラスを掲げる。
「やっぱりまずはあなたからよね? 何と言ってもカバールとの戦いでの中心人物でもある訳だし、
そしてまずはビアンカに水を向けてきた。ビアンカも最初に名乗っておく事に異論はなかったので、頷いて立ち上がった。といっても彼女が初対面なのはこの中で
「ビアンカ・コールマンよ。今は訳あってカッサーニと名乗ってるけど。もう皆知っていると思うけど、私の
「え、ええ……!?」
リンファが大きな目を更に丸くして驚く。まあ気持ちはよく分かる。ビアンカ自身、実父にはまだ会っていないので実感が湧いていないのだから。
「実父は私に『天使の心臓』を与えたわ。悪魔に狙われるだけの厄介な代物だけど、私はそれを逆手に取って巧妙に潜伏しているカバールを炙り出す『囮』としての役割を買って出たの。奴等を一匹残らず炙り出して狩り尽くすか、私が心臓を奪われて死ぬか……。これは私と奴等の
「…………」
既に詳しい事情を知っているルイーザ以外の3人は、ビアンカの境遇と覚悟を知ってやや圧倒されたように黙する。その雰囲気を破るようにルイーザが戯けて手を叩く。
「ふふ、そしてそんな彼女の今回の任務での
「……! う、ま、まあね。今でもまだちょっと信じられないけど」
ビアンカは一転して、少し赤面しながら口ごもる。あれから彼と一度も会っていないので、もしかしてあれは夢だったのではという気さえしてくる。しかし他人であるルイーザがそれを認めているので、あれは間違いなく事実だったと分かる。
しかしビアンカがそんな少女らしい反応を見せた事で、若干気圧されていた3人は安心したように肩の力を抜いていた。ルイーザの目的はこれだったようだ。そのルイーザが手を挙げた。
「じゃあ次は私ね。ルイーザ・フロイトよ。もしかしたら知ってる人がいるかも分からないけど」
「ルイーザ・フロイト……って、やっぱりあの『ニューオリンピア自治区』の!?」
他の3人の中では唯一アメリカ在住であったリンファが反応する。ルイーザが自嘲気味に苦笑した。
「まあ知ってる人は知ってるわよね。そう、そのルイーザ・フロイト本人よ。あの事件にも裏でカバールが絡んでいてね。私はあそこでビアンカ達に救われて、今こうして大統領府の世話になってる立場という訳よ」
「な、何と……あの騒動にも? リキョウから聞いたけど、本当にカバールという連中はこの国全体に根を張ってるのね」
リンファが顔をしかめる。彼女とリキョウの
「そして私も国防総省所属にして
今回の任務に際してアダムの方からルイーザに相方を申し込んだらしい。今回の任務で相方に選ぶという事はつまる
「あなたも……おめでとう、ルイーザ。心から祝福するわ」
ユリシーズからアプローチを受けた今なら素直に友人の幸せを祝福する事が出来た。
「ありがとう、ビアンカ。でもお互いこれからが大変かもね?」
ルイーザが嬉しそうに笑って頷く。カバールとの戦いは終わっていないし、ユリシーズもアダムも尋常な人間とは言い難かったので、確かにある意味でこれからが
「ほら、オリガ。次はあなたの番よ。この『RH』ではあなたの方が彼女達より
「え……わ、私?」
ルイーザに促されたオリガは若干慌てたが、どっちにしろ自己紹介はしなければならないんだと割り切ったらしく、可愛く咳払いしながら立ち上がった。
「オ、オリガ・ゼレンスカヤ、です。ロシア人です。今回イリヤのパートナーとして、皆さンと一緒に参加させて頂く事になりましタ。よ、宜しくお願いしまス」
「イリヤは外見こそ可愛い美少年だけど、とんでもなく強力な超能力者なのよ。あなた達はロシアでも幼馴染の間柄だったのよね?」
「う、うん……また会えルなんて思ってもみなかっタ」
ルイーザが補足するとオリガは少し頬を赤らめながら頷いた。そんな彼女の姿に何故かナーディラの目尻が下がりウットリとしたような表情になる。
「はぁぁ……ほ、本当にお人形さんみたいで、とっても可愛いですわ。ロシア人って皆こんなに可愛い子ばかりですの?」
「そ、それは人によるんじゃない? オリガは街でも評判の美少女だったらしいし」
若干危ない嗜好がありそうなナーディラの様子にビアンカはやや引き気味に答える。そのナーディラが次は自分の番とばかりに立ち上がった。
「オマーン王国の第2王女、ナーディラ・ビンティ・アドナーン・アール=サイードですわ。この度サディーク様の
「よ、宜しく……。大統領の娘にBLMの象徴、更には本物の王女様と直に会えるなんて……改めて凄い世界に来ちゃった気がするわ」
優雅に挨拶するナーディラの姿に、リンファはその自覚が湧いたらしく妙に感慨深げに呟いていた。
「宜しく、ナーディラさん。因みに彼女の許嫁であるサディークさんは、サウジアラビアの第六王子で凄腕の聖戦士でもあるのよ」
ルイーザが主にオリガとリンファに向けて補足する。オリガはともかくリンファはサウジアラビアの王子と聞いてまたその切れ長の大きな目を丸くしていた。
そのリンファに対してビアンカを含めた全員の視線が集中する。ナーディラまではこれまでの事件で関わったり共闘したりしたメンバーであり、カバール絡みの事件の関係者でもあるため、ビアンカとしても既にその素性や人となりは把握している。だが……ある意味では今日の
「さあ、それじゃあお待ちかね。あなたの話を皆聞きたがってるわ。リキョウさんとの
同じく興味津々らしいルイーザがそう言ってリンファを促す。彼女はちょっと緊張した面持ちで頷いた。
「え、ええ、分かったわ。……えー、
「リキョウとはどこで出会ったの? 彼は外見はあんなだけど警察のご厄介になるような人じゃないし」
リンファが首都警察の刑事というのは事前の情報で知っていた。だがリキョウとの接点が分からない。
「実は私、ついこの間までLAPDの刑事だったの。彼とはそこ……LAで出会ったのよ」
「LAで? そこでリキョウに出会ったって?」
ビアンカは目を瞠った。彼女の知る限り、リキョウがLAに出向いたのは
「えーと、確認させて? LAPDにいた時のあなたの
「え……そ、そうだけど、なんで知ってるの?」
リンファは驚いて目を瞠った。これでもう確定だ。彼女はリキョウがLAで『リーヴァー』の脅威から救ったという刑事だ。彼に何度か命を救われた事でリキョウを信頼し、彼に『リーヴァー』の事を任せるべきだとローラに進言さえしたらしい。
リキョウもリキョウで思う所があったのかリンファと出会った事をビアンカに報告せず、ローラから又聞きする事になったのは余談だ。
「へぇ、LAでリキョウさんに助けられて、それで彼の事を好きになってアメリカの反対側まで追っかけてきたって事? 凄い積極性ね。でもそれで結果的に彼と懇意になったんだから大したものだわ。私も見習いたいぐらいね」
「でもそういうのとても素敵だと思いますわ! これからの時代真実の愛を求める為には、やはり女の方からも積極的に攻めていかなくては」
ルイーザが呆れたような感心したような複雑な表情で呟いた。一方で自身もオマーンからアメリカまでサディークを追ってやってきたナーディラは共感するものがあったらしく、納得したように頷いていた。
「なるほど、じゃあ確かに人外の相手も初めてじゃなさそうね。リキョウがこの任務に誘ったくらいだもの。あなたは何か戦う技能があるの?」
「ええ、まあ。中国では父が
「……! 神仙の……」
ビアンカの質問にやや自嘲気味に答えるリンファだが、比較対象がリキョウでは誰だって自己肯定感は低くなるだろう。
とにかくこれでビアンカ自身も含めて5人の女全員に、一応の戦う力がある事は分かった(ルイーザの『パトリオット・アームズ』も事前に見せてもらっていた)。今回の任務もカバール絡みであり、男性陣は信頼しているものの女達にも最低限の自衛能力は求められるだろう。
「さあ、それじゃ自己紹介は十分ね。後はお待ちかね。任務に備えて皆の
テーブルの上に置かれた軽食や飲み物を示しながらルイーザが手を叩いた。確かに本来の目的は
「そうね。じゃあ皆改めて……。今回の任務への参加を承諾してくれて本当にありがとう。皆のお陰で今回の任務の達成に確信が持てたわ。皆で力を合わせて乗り切りましょう。乾杯!」
「「「乾杯!」」」
ビアンカがグラスを掲げると、他の女性陣も全員目の前のグラスを取って掲げた。こうして充分に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます