ゆるふわ部の放課後ラブリーデイズ!!!
時雨澪
0.「キミ可愛いね」
部活動。それは三年間を彩る重要な要素。どこに所属するかによって三年間の生活が決まる。
「カレンはどこの部活に入るかもう決めたの?」
放課後、友人のカナデと廊下を歩いていると部活動の話になった。確かに入学してから三日程経ったし、そろそろどこに所属するか決めないといけない。
「まだ決まってないんだよね……どれも良いなーって思って」
「カレンってば中学の時もそうだったよね」
「えー? そうだっけ」
小学生の頃、私はカナデと一緒の学校に通っていた事もあったけど、私にそんな記憶は無いよ?
「何とぼけてるの。都合の悪い記憶は消してる感じ? 小学生の時も同じこと言ってたよ。『どれも良いなー』って。カレンは優柔不断だよね」
「違うよー。部活って三年過ごすものだからさ、慎重に選ばないといけないじゃん」
「それって優柔不断って意味じゃないの?」
そうなのかな? というか、そもそもどうして小学生の頃の記憶がそんな鮮明に残ってるのさ。
「いやいや、困ってるのは部活選びだけだから」
「じゃあウチと一緒の部活にしようよ。迷わなくて済むよ」
「カナデと一緒? 別に良いけどカナデは何の部活にしようとしてるの?」
「バレー部」
「ば、バレーか……。運動部は……ちょっと遠慮しようかな」
運動は苦手なんだよね……。苦手教科って聞かれたら体育って答えるくらい。
「なんでよ! 体動かそうよ! 楽しいよ!」
そんな元気に言われても運動会だけは勘弁して欲しい。
「それはカナデだけだよ。体が自分の思い通りコントロール出来ない人もいるって事を知ってほしいな」
「ちょっと宮坂さん、今良いですか?」
後ろから声がして振り向くと担任の先生が立っていた。宮坂はカナデの苗字だ。
「どうしたの先生?」
カナデは本当にフランクだなー。先生相手は流石に敬語使ったほうが良いと思うんだけど……。
「昨日出してくれた書類ですが……少し不備があって。少し修正するだけなのでちょっと来てくれませんか」
先生は逆に敬語でそう言い、茶色の封筒を一つ出した。
カナデは「あー……」と少し考えた後、私に言った。
「ごめん、先帰っててくれる? 待たせちゃうのも悪いからさ」
「え、ちょっとくらいなら待てるけど」
「あー……ほら、ウチって人を待たせるのが嫌いなんだよね。ほら、明日どこの部活に入るか聞くからさ。今日の間に決めちゃいな」
「え、ちょっと!」
カナデはそのまま先生と何処かに行ってしまった。
「行っちゃった」
どうして一人にされないといけないんだ。仕方ない。話し相手がいなくなったのなら、今日は帰るしかない。
「ちょっと、そこのキミ。待ってよ」
周りでは楽しそうな声が聞こえる。もうみんな友達を作っている。
「ちょっと。気づいてよ。そこのキミだよ。こっち向いてー」
誰か塩対応の人でもいるのかな?
「ねえキミ。おーい、そこのキミ。一人でいるキミだよ」
あれ、誰か私を呼んでない? 声の方を見ると、教室の窓から一人の女の子が顔を出している。茶色のポニーテールに、髪と同じ色の瞳。
その女の子が確実に私の方を向いていた。
「あ、やっと目が合った」
「……私?」
「そう、キミだよ」
制服のリボンの色が違う。先輩なのかな。手招きしてこちらを呼んでいる。
「な、なにかありましたか」
なにかマズいことしたかな。
恐る恐るポニーテールの女の子の元に近寄る。
「ねぇ、キミ」
「はい……」
何言われるんだろう。
「可愛いね」
「……はい?」
いきなり呼ばれたと思ったら可愛い……?
ちょっと頭が追いつかない。
「部活探してるんだって? 聞こえてきたよ」
「え? あ、はい探してます……けど」
さっきの会話聞こえてたのかな。もしかしてわたしの声大きかった?
「じゃあさ、アタシの所に入らない? 部室ここなんだけど」
窓から身を乗り出して、キラキラとした瞳で私に訴えかけてくる。『アタシの所』?
「というと?」
「そのままだよ。アタシたちの部活、『ゆるふわ部』なんてどう?」
「ゆるふわ部?」
そんな部活、学校紹介のパンフレットには無かったけど?
「そう、ゆるふわ部。楽しいよ?」
「な、なにをする部活なんですか?」
「うーん、一言で表すとすると、放課後を楽しく過ごす部活かな」
とっても怪しそうなんですけど……!
「まあまあそんな顔しないで。アタシは
「えっと、
「カレンちゃんか。いい名前じゃん。ほら、騙されたと思ってさ、一日だけでもいいから、ゆっくりしていかない? キミみたいな可愛い子が欲しかったんだ。ほら、後悔はさせないからさ」
怪しいんだけど、ここで断るのもちょっと逆に失礼になるのかな……。とりあえず一日だけでも良いって言ってるから様子見してもいいよね。ヤバそうだったら逃げればいいし。部活動見学ってやつだから。うん。
「じゃあ……ちょっと見学――」
「やった! ほらカレンちゃん。こっちおいで。楽しい部活動の時間だよ!」
私はドアから出てきた部長に、半ば強引に腕を引っ張られ、そのまま部室に吸い込まれた。
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