第36話 サイクロプス

 シーラの手には、禍々しい量の魔力が込められたファイアーランスが握られていて、一気に魔法陣から引き抜き、そのまま投げていた。


 出来上がったフレイムランスはフォルクスの全魔力を注ぎ込んでもこの威力では作れない。そうフォルクスは火属性が苦手属性だったのだ。作れなくはないのだが、人を相手にするには十分対処できる威力なのだが、このような強敵に対しては使い物にならない位のフレイムランスしか作れない。ファイヤーボールにしてもそうだ。


 表面を焦がすのが精一杯のものしか作れない。そしてシーラが放ったファイアーランスは距離が短いというのもあり、見事に目の中心部に突き刺さった。サイクロプスは驚きの表情を浮かべながら咄嗟に左手で顔を庇ったが、その手を貫き、手ごと頭を貫いていた。目玉の中心を貫きフレイムランスが突き刺さる形で途中で引っ掛り、頭が一気に燃え上がった。グォーと抵抗しなんとか突き刺さっているフレイムランスを引き抜き脇に放り投げた。フォルクスは気絶したシーラを抱き抱えたまま着地し、リズに預けた。


 そしてサイクロプスの拘束をしていた結界が弾け飛んだ。ラティスの限界が来たからだ。ラティスも倒れてしまったが、シーラと違ってゼイゼイと息をしてはいるが、なんとか自らの足で歩く事が可能な状態ではある。


 魔法を放つのはもう無理だった。


「ありがとうラチスといい、フォルクスは剣を片手にべソンとリズに二人の護衛を頼み飛び出していった。サイクロプスが我武者羅に腕を振る。当たれば一撃で死んでしまうようなそれ位の力がある。


 フォルクスは剣で切り裂いて傷を負わせていくが、埒が明かない。時間稼ぎにしかなっていなかった。シーラとラティスの退避が済んだのを確認するとフォルクスが一旦後ろに下がり、トルネードと発っすると竜巻が沸き起こった。

 手振り身振りで竜巻の大きさや範囲を調整し、サイクロプスに向けて飛ばした。そして竜巻がサイクロプスを巻き込み、一気に上空に巻き上げ、飛んでいった。そして手振りで更に竜巻の方向を指示していく。


 そしてカーラが打ち合わせ通り、氷の柱を地面から生やしていく。可能な限り強くする為、ありったけの魔力を込めているのが分かった。フォルクスは腕で竜巻の方向を指示しながら、まるで踊っているようにジャンプしたりし、そして氷柱を目掛けて竜巻を突進するように合図をした。


 するとサイクロプスの巨体が氷柱に突き刺さり、魔石が体から離れ、飛んでていった。


 辺りはサイクロプスが地面に叩きつけられた時にドスンという大きな音、衝撃と共に少し揺れた。


 氷柱が丁度魔石に当たったようで、魔石は割れはしなかったが、サイクロプスはその場で息絶えたのが分かる。どうやら致命傷にならなくても、魔石が無くなれば魔物は生きられないようで、フォルクスはフムフムと一人納得していた。


 周りを見ると、カーラが肩で息をしている状態だった。魔力を使い過ぎたからだ。それだけの魔力を込めていたのが分かるのだが、そうでなければサイクロプスの体に刺さる事もなく、砕け散っていたであろう。サイクロプスを貫いていた氷柱の先端はなくなっており、太い部分が突き出している形になっている。


 フォルクスは周りの魔物の気配を確認し、他の気配がない事を確認してから急ぎ魔石を拾い、魔石とサイクロプスの体を収納に入れていった。


 フォルクスは一段落したのでカーラ達の元に駆けつけ。


「ラティス、カーラ、無理をさせてしまったね。歩けるかい?」


 そう言うとラティスは大丈夫と言うが、カーラは肩を貸して頂ければと言う。リズに頼み、カーラに肩を貸してあげ、フォルクスはラティスに手伝って貰いシーラをおんぶしていた。万が一剣で戦う時に簡単には落ちないように紐で結んで貰ったりしている。


 そう、完全に魔力切れにより気絶してしまっているからだ

 。


 ちなみに収納にはサイクロプスの首を切断し、頭と胴体で分けてやる。いちいち出すのが面倒くさいからだ。村へ戻る道筋はフォルクスがシーラを背負い先頭で、べソンか殿をが勤める感じになった。幸い魔物が出てくる事はなく、時折小動物が顔をのぞかせる位であった。


 村には15時位に着いた。結局お昼を食べてから2時間も経たずに解決してしまったのだ。


 結局村長がいたので首を見せて討伐報告をした。体の方は馬車に有り、どこかの町でギルドに提出し換金すると話しておいた。一応依頼書に完了サインをして貰い、昨日泊まった宿の方がまだ良さそうだったりので、街を目指す事にした。またもや夕方に到着してしまうが、馬車を進める。


 御者はべソンとリズの配慮で2人が行ってくれる事になった。


 カーラとラティスは席に座るとすぐに寝ていった。


 シーラはと言うと、消耗が激しいので寝たままだったので、フォルクスが膝枕をしてあげていたが、それを見たカーラとラティスは羨ましがっていたが、フォルクスは今度してあげるから今日は我慢してねとだけ告げる1幕もあった。



 そして暗くなりかけた頃に目的の町に着いたのだが、街に着く直前にようやくシーラが起きて、おはようと間の抜けた声を出していた。そしてフォルクスが大丈夫かいと言うとフォルクスと自分の位置関係がおかしい事に気付いたようでシーラが顔を真っ赤にし 


「こ、こここここ、これは一体ど、どどど、どういう状況なのよ。意味わかんないわよ」


 と騒ぎ出したのでかーらとラティスも起きて


「あー、シーラが起きた。いいなシーラは羨ましいなあ」


 とカーラが言っていたがフォルクスが


「うん。その様子だと大丈夫そうだね。」


 フォルクスが額をなでながら言ったが、


「一体どうなっているの?何かのご褒美?」


「あはは。シーラに無理をさせちゃったみたいだね。あの後サイクロプスは無事倒せていたんだけども、その後ずっとシーラが気絶していたから、昨日泊まった街に向かっていたんだけど、きのうのお礼かな?こうやって膝枕をして横になって貰ったんだ。本当はもっと柔らかい所で寝かせてあげたかったんだけど、こんな硬い足で申し訳ない」


 そう言うとシーラは


「あ、ありがとう。そのね、心地良く、気持ち良く寝かせて貰ったわ。みんな無事なの?」


「うん。みんな無事だよシーラに無理をさせて悪かったね」


「いいのよ。基本は私が考えた作戦なんだから。こうなるって言うのは分かってたんだから」


「うんそうだね。魔力が切れたらどうなるか知らなかったけど、次からはもう少し考えないといけないね。でもシーラのおかげで、サイクロプスを無事倒す事ができたよ」


 そうやって褒めるとシーラは顔を赤らめ、起き上がろうとするのでフォルクスが止めた。


「もう少し横になってると良いよ。ってももう街に着くけどさ」


 うんと頷き、目的の宿に着くまでフォルクスの膝枕を堪能するシーラであった。

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