第29話  冒険へ

 奴隷商を後にし、フォルクス達は一旦宿に向かっていた。馬車を取りに行く為だ。


 お金が勿体無いなとは思いつつ、部屋をキープしたままにしている。最近どの宿の部屋もほぼ満室だというのだ。魔法学校の試験の為に各地から来ている者達の関係者によって部屋が埋まっているらしい。


 その為一旦部屋を手放してしまうと、戻ってきた時に空き部屋がなく、かなりの安宿か野営という事になる。それを避ける為に不在時の分もお金を払い、部屋をキープしておいた。ただ、食事は必要ないので、部屋のキープ代だけで安くして貰った。


 それと追加で頼んだ弁当を受け取る。それをリズにやって貰い、フォルクス達は馬小屋で馬を受け取り、馬車を収納の外に出して馬車に馬を繋げていた。兵士をしていた時に何度ともなくやらされていて、フォルクスとべソンは慣れたものだった。


 御者や見張り当番をどうするかになった。


 6人なので、基本的に2人一組で当番を決める。べソンとリズがペアになるのは決まっているが、問題はフォルクスの方であった。皆何も言わないが、フォルクスと組みたがっていた。結局これからも冒険に行く事になるだろうからと、見張りも含めてローテーションを組んでいって、順番を決める事にした。初日はフォルクスの判断でラティスがフォルクスと組む事になった。


 そうフォルクスは3人から好かれていたのだ。カーラからははっきりと言われているが、シーラとラティスからは言われてはいない。旅に慣れていないラティスをフォローする必要があり、初日はフォルクスがラティスの相棒として馬車を進める事にした。


 フォルクスは3人が自分を慕っている事は感じている。特にシーラがそうだ。ただ、フォルクスはある意味大人だった。まだ15歳だが兵士として多数の戦場に駆り出されていった。その為に歳不相応な精神構造になっていたのだ。


自分を押し殺し、心を閉ざす。精神的にタフにならないとやっていけなかったのだ。きのう飯を隣で食べた奴が今日は躯になっていると言うのが日常茶飯事になっており、見知った者の死はが辛かった。その為か、いつの間にか同じ班の4人以外とは距離を置き、段々と心を閉ざしていった。


 しかし、そんなフォルクスの病んだ心をシーラは無視し、ずげずげと入ってきた。お陰で忘れていた笑いを取り戻し、本来の自分が出て来ていた。ただ、今はチームのリーダーとして5人の生き死にに責任を負わねばならなず、重圧に押し潰されそうなのだ。


 誰も気が付いていなかった。フォルクス自身もだ。皆フォルクスに依存していたのだ。まだ出会って僅かな期間だが、3人は自らの貞操を必死で守ってくれて実行するフォルクスが神掛かって見えているに過ぎない。そうフォルクスは考えていて、なるべく距離を置こうとしたが、失敗どころか、周りの女性をムキにさせるだけだった。


 但しカーラだけは違う。自らに付き従う精霊にフォルクスを導くように言われたからだ。シーラはフォルクスにとっての魔法の導き手であり、戦闘時の司令塔になる存在なのだと伝えられているが、それをカーラは語らなかった。


 現状フォルクスの魔法が一番強いというような認識が皆にはあり、フォルクスは一番最初の見張りをする。つまり女子2人の班とベソンの班が真ん中を1日毎で変わる事で決着した。

 因みに当番の編成の話にはフォルクスは加えられなかった。フォルクスが意見を出そうとしたら、シーラにピシャリと言われたのだ


「誰もあんたの意見なんて聞いてないわよ」


 こればかりはシーラはフォルクスに意見を言わせられなかった。言えばその通りになってしまい、どうなるか分からず、必死に考えた3人でフォルクスとの番を分け合う折衝案が頓挫するから、冷たくあしらってしまったのだ。


 フォルクスはしゅんとなっていた。また何か地雷を踏んだか?シーラに嫌われたか?あっ!さっき奴隷商で胸の話でいじったから怒りを買ったかな?シーラには嫌われたくない!と本当にいじけていた。フォルクスはツンデレが好きだった。もし3人の中から一人選んで彼女にするなら今はシーラを選ぶ感じなのだ。


 またカーラにいじけないでね。あの子あのように言っていますが、フォルクスさんの事を私達同様に慕ってますから、そっと慰められていた。


 またラティスは不安がっていた。今までこのような冒険等をした事がなく、旅もまともにした事がないというのだ。


 バリバリの箱入り娘だった。

 ただ村長の娘として多少なりとも、剣技だけは教えられていた。魔力はあるのだが魔法の方は攻撃魔法を教えられておらず、結界魔法のみを教えられていた。そう結界魔法の一族が村長をしていたからだ。


 その為だろうか、魔力量と魔法の力が合わないが、結界魔法に関して言うと上級魔法が使える。その為単独ではあまり役には立たないのだが、チームや部隊として行動する場合等、強敵と出くわした場合に敵の攻撃を耐えるだけの力を得ているのだ。


 ラティスが今までに経験した旅は隣の村や街に農作物や生産品を運び、帰りに取引した農作物や生産品を積み帰るような護衛付きの隊に同行しての日帰りしかなかった。首都に来たのも大きな商隊にお金を払い乗客として乗せられてきたから実質初めての事で不安で一杯だったのだ。


御者は幸い全員出来るし、馬にも乗れる。首都の付近は比較的安全なので、初っ端が慣れないラティスとフォルクスになったのだが、街を出た途端に不安からひたすらフォルクスの腕に抱き着いていて、フォルクスはラティスの胸の感触にムラムラしていた。ただ、会話は弾んだ。


やはり初夜権の買い戻しについて聞かれた。不安を払拭するのが先かと判断し、ラティスに伝える事にしたのだが、つい可愛くて手を握ってしまった為にラティスが真っ赤になっていた。


「本当に買い戻しができるのでしょうか?私今はホッとしているんです。キスもまだだし、胸も触られた事が無かったのに、今頃囚人監修の元で見も知らぬ変態に侵され純潔を散らされていたかと思うとまだ震えが止まらないんです。まだ心臓がバクバクしてるんです。こんなふうに。フォルクス様に抱かれるのは嬉しいのですけど、囚人監修の元じゃ嫌なんです。やっぱり初めては二人っきりで優しくされたいのです。って私、その、あの」

 

ラティスはフォルクスの手を

胸に当て、心臓の鼓動を確認させていたが、胸に手があるのだ。大胆な行動に耳まで真っ赤になっていたが、その手をそっとフォルクスの胸に当てた。


「大丈夫だから、僕を信じて。どうやら僕の力は見た魔法をコピー出来るようなんだ」


「へー凄いですわね。」


それがどうしたの?といった感じで、キョトンとしていた。


「実はさっきさ、奴隷契約全般に必要な魔法を取得しちゃった。ほら、建物中で奴隷契約をしている人がいたんだ。奴隷も扱ってますとちらっと」

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