第4話 撤退戦

「ほら来たぞ」


 オレイユが一言告げると、どこからともなく弓矢を出し、矢を放った。それを見た4人は驚いていた。そう、本来あり得ないからだ。


「4人は弓を使ってくれ」


 オレイユは弓と矢を出し、各員に渡し、矢が沢山入った矢筒を配った。次に大量の油が入った樽を出していった。


 更に地面に木を置き、火を付ける準備をしてオレイユは叫んだ


「最近生活魔法が使えるようになったんだ。火矢の準備を」


 4人からするとオレイユがどこからともなく出してきた油の樽だが、リュックは当たり前だという感じで先頭集団に向けて投げつけた。道幅は5m位だろうか、馬車がギリギリですれ違う事が可能な道幅しかない。油を撒いて火を着ければ道を塞ぐ事が十分出来る。問題はそれだけではとてもではないが30分持たない事だ。


 火矢用の矢を放つ準備が出来たので、オレイユは地面に置いた木に火を着けた。正確には生活魔法で火を着けたのだ。


 そして弓に番えた矢に火が着いた事を確認し、オレイユがおもむろに放て!と叫ぶ。すると火矢が放たれ、油が撒き散らされた辺りに敵先頭集団が差し掛かった、まさにそのタイミングで炎が立ち上がり、先頭集団が炎に包まれた。


 運の悪い数人が火に包まれたようで、阿鼻叫喚になった。ただ、数人は火が着く直前に油が撒かれた場所を突破してきたようで、こちらに向かって来た。但し、2名が燃えながら進んできたがやがて落馬し、絶命したようだ。更に突破してきた敵兵に対して4人は情け容赦なく矢を放って行く。オレイユも風魔法で敵兵を切り裂いていった。


「よし!先頭は皆の弓で片付けられた。足止め成功だ。やったぞ!この調子だ」


 ランバートが士気を高める。オレイユ達には必要無いが、あの4人には自信と希望が必要で、彼らの力無くしてこの場を切り抜けるのは困難なのだ。


 この場所の坂の傾斜はそんなに無い。スキー場で言うと初心者コースの緩斜面、それ位の勾配しかない。


 ランバートがまだ油があったかをオレイユに確認した。


「そうだなー、確かまだあったな。どうしようか?」


「そうだな。先頭を今暫く食い止め、時間稼ぎをした方が良いだろう?もう一つ使おうぜ」


 そしてここにいる中で一番の力持ちのリュックが頷くと、新たにオレイユが出した油の入った樽を前方へ投げつけた。10m位飛んだだろうか。樽が割れてそこから油が後ろに撒き散らされ、新たな火の手を上げ、新たに炎に包まれた兵がかなり出たようだ。


 一緒に殿を命ぜられた4人にオレイユは矢を大量に渡しており、死にたくなければどんどん矢を放てと伝えていた。


 軽業師としか思えない小柄なロンはそんなオレイユの背後を守る為、完全に敵のいる方に背を向けている。後方から何かが来た時に対処する為だ。彼らを信用している為、背中を敵に見せる形になるがそれでもオレイユの背中を守ろうとしている。ランバードは臨機応変に対処する為剣を抜いて、街道の脇から何かが出てこないかを警戒している。


 続いてオレイユは街道の脇に木を出し始めた。これで当分街道の脇からはこれまいと考えたからだ。少なく共騎馬は無理だ。


 そして次に自分達の目の前に大きな丸太を出した。街道の道にである。皆で丸太を転がし始め、ある程度勢いがつくと勢いのまま坂を転がって行った。


 炎を超えて何人かの兵を巻き込ながら坂の先をどんどん転がって行った。未だに3分しか時間を稼いでいない。


 木も時間稼ぎにしかならない。撒いた油で発生した炎の勢いが段々と弱まって来ていたのだ。そう、水を掛けたり土を掛けたりし、消え始めたのだ。長くは持たないなとオレイユは焦りだし、今からどうするか悩んでいたが、ランバートが先に閃いた


「オレイユ、お前さん確か岩を大量にゲットしていただろう?」


「ああ、有るよ」


「今ここで放り出したらどうだ?リュックに肩車された状態で出して投げればある程度の高さから行けるんじゃないのか?」


「そうだな。ああ、それが良さそうだな!やろう!」


 そういうや否やリュックがオレイユを担ぎ肩車した。リュックは普段無口なのだ。意見を求めない限りハイとかイヤとかの返事しかない。


 オレイユは背が高いのだが、リュックはそれよりも5cmは高く、180 cm位で体躯がかなり良い。オレイユが無駄な肉が無いボクサータイプに対し、リュックはレスラータイプの筋肉質の者だ。かなりの力の持ち主で、70キロ程有るオレイユの体を軽々と担いで肩車していたのだ。


 オレイユはおもむろに肩車された状態からリュックの肩に立つ。そんなリュックを信頼し、体を預けるオレイユである。リュックが足をがっちり掴み、前傾姿勢を取る。そしておもむろに収納から岩を取り出し放り投げた。正確には出した瞬間に前方に落下していくのだが、地面に落ちた瞬間にドスンという大きな音と共に段々と前方に転がっていった。そうなるべく丸い岩を選んで収納していたからである。


 大岩が突然現れて転がってくるのだ。敵はたまったものではない。次々と岩を出して道を塞いで行く。少し転がれば木や兵士に引っ掛かりやがて止まったからだ。オレイユは言う


「何も戦って命を散らすのが殿じゃないんだ。こうやって道を塞げば30分位なんとかなる筈なんた。正面は大丈夫だと思うが、問題は街道の脇だ。警戒を頼むよ」


 大量の矢が射掛かけられたが、不自然に軌道が逸れ全て当たらない。オレイユ達は何とも思っていないが、新たにパーティーに入った4人はおろおろしていた。大量の矢が降り注いでくる状況だが、全て手前に落ちて当たらないのだ。生きた心地がしない。


 彼らはチェーンメールに申し訳程度の兜を被ってはいるが手足も剥き出しだ。余りに鎧等が分厚いとその重みで歩けないからである。


 矢が飛んで来れば本来死活問題だ。それが戦場で大量の矢が飛んで来ていて、大型の盾が無ければ尚更だ。

 なので4人は死を覚悟したが、特に矢が当たる事も敵兵が突進して来る事も無く、訳の分からぬままオレイユが何とかしてしまったのだ。

 更に嫌がらせの如く生活魔法で水を流して泥濘を作る。


 また、道の脇から脇に騎馬の者の首の高さに黒いロープを張っていく。


 今はこの場を動けないので、トラップを仕掛け、生存率を少しでも上げようと足掻いていた。

 4人組は必死に矢を放っていた。


 岩のインパクトは大きかったようで、暫くの間追撃が来なく、やがてノルマの30分が過ぎたのであった。


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