第24話 ☆

「あなたばっかりまつりちゃんと遊んでてずるい。」


 名前も知らない女の子が、あたしの肩を掴む。


 あたしは怖くて、何も言い返すことも出来ずにただ耐えていた。


 学校の帰り道で、公園の側を通りがかったとき、まるで、待ち伏せしていたかのように4人の女の子が現れた。

 その女の子たちは道を塞ぐと「ねぇ、あんた。こっちきて。」と威圧的な態度で私の手を掴み、公園の遊具の前に立たせると、あたしを囲むように立つ。

 すると、まるで尋問するかのようにあたしとまつりちゃんの関係を問いただそうとしてくる。


「ねぇ、しょーちゃんが聞いてるのに無視しないでよ。」


 あたしは思い出した。お姫様のような少女と初めて会った日に、かんれんぼをしていた子達だ。


 最近あの子があたしに構ってるせいで、一緒に遊べないと怒っているのだ。


 あの子が、この子達よりもあたしを選んでくれている。そう思うと、体がぽかぽかと暖かくなり、少し強くなれたような気がしてくる。


「まつりちゃんが、あたしと遊びたいって言ってるの。」


「は?あなたが一人で可哀想だからまつりちゃんが遊んであげてるんでしょ。みんなと遊べなくて、まつりちゃんが可哀想だよ。」


 他の子も、そうだよ。と口を揃える。


 あたしの中の勇気がしなしなと衰えていく。

 あの子はあたしが可哀想だから遊んでくれてたのかな。あたしといても本当は楽しくなかったのかな。目頭が熱くなり、涙が出そうになる。


「泣いたって無駄だよ。まつりちゃんの方が可哀想なんだから。」


 泣きそうだというのがバレたのが、あたしが負けたんだと言われたようで、悔しくて惨めな気持ちになる。せめてもの抵抗に絶対に泣いてやるものかと涙を堪える。


「なにしてるの?」


 その場の雰囲気には全く似合わない暢気な声が聞こえる。

 皆んなが一斉に振り向く。


 そこには、ことの発端であるまつりちゃんが立っていた。一度家に帰ったのだろう、ランドセルや黄色い安全帽はしておらず、興味津々といった感じでこちらに近づいてくる。


 そして、あたしと目が合う。


「もかちゃんなんで泣きそうなの?」


 今度の彼女の声には、少し棘が混ざっていた。


 怒っている。恐らくあたしの為に。

 再び胸の奥がじんわりと暖かくなる。あたしを助けてくれるその姿は、まさしく王子様のようだった。


「最近、まつりちゃん。この子とよく遊んでるでしょ。だから、どんな子なのかなって話してただけだよ。」


 しょーちゃんと呼ばれている子が、先生にいたずらがバレたときみたいにおどおどとしていた。


 あたしが今本当のことを言えば、まつりちゃんはあたしの味方になってくれるだろう。何故かそういう確信があった。


 でも、あたしはまつりちゃんに助けられるお姫様になりたいわけじゃない。まつりちゃんを助ける王子様になりたいんだ。


 このまま、ずっと彼女に助けて貰うなんて、嫌だ。


 あたしは、しょーちゃんに手を差し出しながら笑顔で言う。


「そうだよ。一緒に遊びたかったんだよねしょーちゃん。」


「え、う、うん。」


 しょーちゃんは、渋々といった風にあたしの手をとる。


 あたしは、このとき決心した。まつりちゃんを守れるくらい強くなって、そして…………。

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