同じ歩幅
結城 佑
第1話
放課後、人の寄り付かなくなった旧校舎の最上階。一番端に位置する教室で、毎週金曜日最終下校時刻まで逢い引きをする2人が居る。
普段はクラスが離れていて接点がない上に共にゲーマーで、付き合っていてもなかなかゆっくりと恋人同士の時間を過ごせないからだ。
この時間は、どれだけイベント期間中だろうと電子機器には触らない。
それが二人で決めた最低限のルール。
「可愛い。」
威英が静かに呟いた。
「どこが。」
深聡は、頬を桜色に染めながら視線を逸らした。
「どこって。おま、ええ加減自分の面の良さ自覚した方がええ。」
「だからって男に可愛いはないだろ!可愛いは!」
頬を膨らましながら視線だけでなく顔も背けて言い返してくる。
その仕草がまた愛おしい。
「可愛ええ面しとるんが悪い。」
顔を背けたことで、がら空きになった首筋に優しく口付けをすると、「んっ.......。」と声をもらした。
ワイシャツのボタンを外し肌蹴させた胸に、舌を這わせながら首から肩甲骨、胸へ。
「ちょ、まっ.......!!」
「可愛ええよ。」
小さな桃色の蕾に口付けをすると、声を出すまいと必死に両手で口を押さえている。
わなわなと悦びに震える指に自分の指を絡め、今度は少し低めの声で耳元で囁いた。
「可愛ええ。」
威英は、顔を少し離すと頭から腰までをゆっくりと眺めた。
「あ、あんま見ないで.......。」
「それは無理。」
そいうと唇を触れ合いそうな位置まで近づけた。
「なにこれ....こわい....。」
快感に戸惑う深聡の潤った目が、僅かに開いたカーテンの隙間から入ってきた夕日を反射し輝いて見える。
リリリリッッッッ!!
二人の唇が重なるのを遮るように、威英のスマホが鳴った。
同じゲーマー部の光星からだったので、イライラしながら電話に出たが、相手は気にすることも無くいつもの無駄に高いテンションで用件を伝えてきた。
「はぁ。」
通話を手短に終え、ため息がもれる。
下らない内容とわかっていながら出てしまったことと、『カラオケ部の活動が無くなったから、ゲーマー部の活動がしたい』という思ってた以上にくだらない内容だったことに呆れた。
その様子を見て誰からの電話だったのか察したのか、深聡が「何て?」ときいてくる。
通話内容を教えると同じように呆れたようなやはりと言うような笑い方をした。
「....こうして付き合ってから毎週ここに来とるのにさ、全然進展しとらんよな。俺ら。」
「うん。」
「今日は、イける気がしたんやけどなぁ....。」
片手で頭を抱えしゃがみこむ威英を机に座りながらシャツのボタンをとめている深聡が見下ろしながら挑発してくる。
「お前が奥手すぎるからねー。」
「お前が初心すぎんねや!!」
顔を上げ、負けじと言い返す。
しばらく睨み合っていたが、どちらともなく吹き出し笑いあった。
(来週はどこまで近付けるかな。)
同じことを考えながら、光星の待つ部室にならんでむかうのだった。
同じ歩幅 結城 佑 @yuiki1014tasku
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