久遠の彼方からの操演

柊 悠里

第1話 superposition

 西暦2290年1月14日、メガロポリスTOKYOにはいつもと変わらぬ朝が訪れているように思われた。

 都心部の高層マンションの1区画からドアを開けて外に出ようとした安田次郎は、踏み出そうとした右足が何かに引っかかり上半身ごと前のめりに転びそうになる感覚を覚える。

〝何に躓いた?〟転ばぬように左足で踏ん張ろうとしたが、その左足も動かせない。

〝ウソ!こんなところで盛大にこけちゃうの?〟両手を突っ張って扉の枠に捕まろうとする。だが両手は枠に届かない。

〝ドア、どこにいっちゃったの?〟空模様を観る為にドアの外、上空に向けていた視線を足元に戻す。

 床はどこにもなかった。地上数百メートルの虚空に唯一人浮かんでいる。遥か下方の地面は赤茶けた砂漠のように見えた。

〝うわあ!落ちる〟叫び声をあげたが声にならない。だが落ちることはなかった。視線を動かすこともできなくなり、視野の周辺でメガロポリスの高層ビル群がホログラムのように揺らいで透き通り消えていくのを朧げに感じながら、安田の意識は遠のいていく。

〝きっとこれは悪い夢だ〟意識が消える最後の瞬間に心の中でつぶやく。だがそれは夢ではなかった。


 西暦2290年1月14日、西部太平洋時間の午前7時23分18秒から22秒の5秒間で地球人類の文明と世界は滅びに瀕していた。

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