愛の巣の料金は社長持ち

 僕とせっちゃんはまず、お互いの両親とも話し合う。


 両親は最初こそ驚いていた。

 けど、僕たちが真剣交際だと説得すると、「お見合婚みたいなものと思えば」と納得してくれたみたい。


 せっちゃんのご両親の説得は、恐ろしく早かった。

 なにしろ、僕の両親説得に同行したくらいだから。


 続いて、転出届の提出をして、社長の用意してくれた新居へ引っ越す。

 婚姻届と転入届は同時に提出した。

 各種の氏名変更と住所変更をして、手続きは完了する。


 以上、社長のアドバイス通りに済ませた。

 おかげで二週間掛かると思っていた手続きが三日で終了する。

 住民票も新調して、免許の住所も書き直しに。


 次は貯金を崩して、指輪を買う。

 結婚資金としてお金を貯めておいてよかった。

 こんなイベント、一生ないと思っていたのに。


「似合いますか?」

 シルバーの指輪をはめたせっちゃんが、僕に手を見せてくる。


「とっても!」

 お揃いの指輪をして、手を繋ぐ。



 次は、愛の巣を見に行くことに。


「地図だと、ここですね」

「これが新居ですかぁ。素敵」


 用意してもらったのは、会社から近い物件だった。


「この小さいお部屋は、なんだろ? 書斎ですか?」

「ですかね? 康夫さん、ネット小説を書いていると聞きましたので」

 僕はノートPCを持っている。読書も電子タブレット派だから、書斎には困っていない。


「お姉ちゃんに、聞いてみます」


 数分後、せっちゃんは頬を染めながら電話を切った。


「えへへ……子ども部屋ですって」

 照れながら、せっちゃんが部屋を見渡す。

「ちょっと、気が早いですねぇ。お姉ちゃんったら」


 ほどほど広くて、家賃もちょうどいい。

 これなら二人でもやっていけそう。


 ところが、家賃は不要らしい。

「ムリヤリ結婚させたからな」と、家賃や家具などの費用は全部こちらで持つと言ってくれた。


 後日、社長に自分で払うからと言ってみた。

 が、社長は決意を曲げない。


「そんな。悪いです!」

「いいんだ。その分、幸せになってもらうからな」

「は、はい」


 なんだか、恐縮だ。

 いつか、自力で家賃を払えるようにしよう。



 披露宴や結婚式はどうするか、考える。


 結局、ウェディング用の写真だけ撮った。


 急すぎるし、状況が特殊すぎる。

 過密になることを防ぐため、オンラインがいいのではと意見も出た。

 が、式は挙げないことにした。

 お互い友だちが少ないことが決め手に。


「バアッと派手にするより、しんみりと側にいたいです。二人のこれからのために、お金を使いたいんです」


 人に見せびらかす物ではないと、思っているのだろう。


「じゃあ、新婚旅行は豪勢にしましょうか?」

「いいですね! 賛成です」

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