交際0日で地味子さんとムリヤリ結婚させられたけど、めっちゃ幸せです。

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

交際0日婚

「突然だが、二人には結婚してもらう」

 社長が、とんでもないことを言い出した。


 急に社内放送で呼ばれたので、何事かと僕は思ったけど。


「どうしてでしょう?」

熊川くまがわ 康夫やすおくん、聞けば、うちの妹とクラスメイトだってな?」


 同じように、放送で呼び出された吉岡よしおか 芹那せりなさんが、眼鏡越しからオドオドした目で僕を見ている。


「だよな。せっちゃん」

 芹那さんは、姉である吉岡 征子いくこ社長に声をかけられ、コクコクとうなずいた。


「妹も肯定しているが?」

「はい。せっちゃんさんとは、高校三年間に隣同士でした」


 社員は全員、二人が姉妹と知っている。

 上司部下の関係とはいえ同じ吉岡姓なので、妹さんを「せっちゃんさん」と呼ぶ。


 芹那さんは僕と違って頭がよかったので、お互い別の大学に入ったけど。


 就職活動中、いきなり征子社長から連絡が来て、「我が社で働いてくれ」と声をかけてもらった。それ以来、二年の歳月が流れている。


「キミには、交際相手はいないよな?」

「ま、まあ」


 こうも事実を突きつけられると、ちょっとショックだな。イヤミではないのはわかるけど。


「社長のおっしゃるとおり、僕は彼女なんてできたことがないです。それをいきなり、芹那さんと結婚しろだなんて」


「キミがせっちゃんを慕っていたのは、リサーチ済みなんだよ」

「えええ!?」


 僕は三年間ずっと、芹那さんを意識していた。

 でも、声をかけられず。

 結局、特に進展もなくボクたちは卒業した。


「そんなにわかりやすかったですか、僕は?」

「だって、せっちゃんもキミを好きだし」


「うおおおお!?」

 不謹慎ながら、テンションが上がってしまう。

 驚きより、喜びの方が勝ってしまった。


「でも、どうしていきなり」


「すきなんですぅ」

 震えた声で、芹那さんが頭を下げる。


「でも、勇気がなくてぇ」


「わ、わかりましたから。泣きそうな顔しないで」

 これだけの言葉を振り絞るのに、相当の体力を使ったみたいだ。肩で息をしながら、芹那さんはヘナヘナになっていた。


「脅されて言わされたわけでは、ないんですね?」


 ドッキリの類いだったら、かなり悪趣味すぎるけれど。


「本心からだ。キミにだってわかったはずだろ?」

「ええ。まあ」


 この疲労具合からして、ガチでボクを好いていてくれたみたいだし。 


「交際がOKだとしても、ボクは女性を喜ばせる方法なんて思いつきません」


 こんなはずじゃなかったと、ガッカリさせてしまうかも。


「その心構えでいいんだ。『オレ、完璧だし。女性の気持ちなんてソッコーわかるよ』って自称モテモテの方がタチが悪い」


 たしかに、そうだが。


「そうはいっても、結婚するってコトは、他人と一緒になることですし。子どもだって」

「大丈夫だ。せっちゃんは我が息子のオシメも頻繁に変えてくれるから、妊娠出産にも対処できるだろう」


 少子化対策にも、社長は全力を尽くしてくれるという。


「交際ゼロ日ですよ? お互いもよく知らないのに、うまくやれるでしょうか?」

「結婚なんて、うまくいかなくて当たり前だ」


 まるで真理のように、社長は告げた。


「元は他人同士なんだから、妥協やケンカも出てくるだろう。結婚=幸せという時代でもない。結婚したせいで不幸になったヤツも、私はたくさん知っている。しかし、せっちゃんは熊川くんを選んだ。そこは汲んでくれないか?」

「もちろんです。ボクもうれしいです」


 結婚したからと言って、何かが劇的に変わることもないだろう。

 それでも、僕は芹那さんと過ごしたいと思った。


 憧れが壊れる可能性だってあるかもしれない。

 けど、それはボクの植え付けた勝手なイメージなのであって。

 素の芹那さんだって確かに存在するんだ。


 僕も油断するかもだから、失望させないように気をつけないと。


 僕は、せっちゃんさんに向き直る。


「せっちゃんさん」

「姉と同じく、せっちゃんでいいです。もしくは芹那と」


「では。せせせ、せり」

 鶏肉みたいな言い方になってしまう。


「せっちゃん、僕と結婚してく」

「はい」


 食い気味に、せっちゃんは僕のプロポーズを受けてくれた。



「すべての責任は、私が取る。だから」

「いいえ。ダメだった場合は僕のせいです」


 二人に、問題を押しつけたりなんかしない。

 結婚するのは、僕が決めたことなんだから。


「そういうところが、キミに惚れた理由なんだろうな」と、社長はこぼす。

「同時に、二人が臆病すぎる原因でもある。必要以上に責任感がありすぎて、相手を思いやりすぎる」

「そうかもしれません」

「だから、二人ならうまくいくと思ったんだ」


 社長の言うとおり、僕にも確信があった。


「結婚せずに後悔するより、結ばれて後悔しろ。二人なら乗り越えられるさ」

「ありがとうございます」


 正直に言うと、怖い。

 でも、ビビっていても仕方なかった。


 最後に、せっちゃんが僕に抱きついてくる。

「よろしくおねがいしますぅ」


 女の人って、こんなにもふっくらしているんだ。


「私と同じFカップだぞ。大事にしてやってくれ」

「そういう情報はいいので!」


 こうして、ボクたちはあっさりと結婚した。

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