第9話 ほんの少し眠たい朝に

 朝、目覚まし時計が鳴り響く部屋で、ゆっくりと体を起こし、目覚まし時計を止めたサクラ。ふぅ。とため息ついてベッドから降りた

「朝だ……起きなきゃ……」

 眠たい目を擦りながら、リビングに向かうと、ソファーで寝ている女の子の体を揺らして起こしはじめた

「おはよう、ユリちゃん」

 ユラユラと何度も体を揺らされても起きる気配のないユリに、サクラがふぅ。とため息ついた

「私、もうすぐ学校行くけど、ユリちゃんはどうする?」

 キッチンへ向かいながら、声をかけるサクラ。ゆっくりと体を起こしはじめたユリ。少しボーッとしながら、サクラのいるキッチンの方に顔を向けた


「んー……留守番しておくよー」

 背伸びをしながら答えると、飲み物を持ってサクラがリビングに戻ってきた。ユリに飲み物を渡すと隣に座って、一緒に飲み物を飲みながら一息ついた

「でも、ユリちゃんも学校行かなくていいの?」

「いいの、いいの。ていうか、学校行ってるなんてサクラとミツバくらいだもんね」

 サクラの心配をよそに、ユリが大きく背伸びをしながら呑気に答えた

「それに、ツバキとかナツメだって学校行ってないし、どうせさぁ……」

「でも、行った方が…」

「サクラのお母さんだって、学校より本を優先してほしいって言ってたじゃん」

「そうだけど、本以外のことも知れるし、ミツバちゃんもいるから……」

「……ミツバねぇ」

 すると突然、テーブルに置きっぱなしにしていた二冊の本をユリが指差した

「この本、ミツバのでしょ?覚えてなくても持っていたんだね」

 サクラも二冊の本を見て、持っていたコップをぎゅっと強くつかんだ

「やっぱり、本から逃げられないんじゃない?」

「そんなことない!ミツバちゃんは絶対、大丈夫だから……」

 ユリの言葉を遮り叫び泣きそうな顔をしているサクラに気づいて、ユリが少し慌てはじめた

「わかったから、泣かないでよ……」

 泣くのを我慢してユリの言葉に頷くも、結局グスグスと泣いてしまったサクラ。しばらく泣くのが止むのを待ってみても涙が止まらないサクラをぎゅっと抱きしめたユリ。だが、抱かれて余計に泣いてしまって、部屋にサクラの泣き声が響いた。しばらくすると涙を拭きながらゆっくりと立ち上がったサクラ。心配そうに見ているユリの側を通って、キッチンへと歩きだした


「ご飯……食べよう……」

 とカチャカチャと食器の音をたてて、二人分の朝御飯を用意しはじめたサクラ。その様子をリビングから飲み物を飲みながら見守るユリ。黙々とご飯を作り続け、しばらくすると美味しそうな朝ご飯が出来上がり、ご飯をリビングに持ってくると、特に会話もなく朝御飯を食べはじめた二人。半分ほど食べ終えた頃、ユリが隣に座るサクラに話しかけた

「ミツバだって、私達のために動いたんだから、悲しい顔しないでよ」

「うん……けど」

 ユリの話に朝ご飯を食べていた手を止め、うつ向いてしまったサクラ。ユリも手を止めると、サクラの頭を優しく撫でた


「ほら、遅刻するよ。早くご飯食べよう」

「……うん」

 その後は特に会話もなく朝ご飯を食べ終えると、学校に行くため、出掛ける準備をはじめたサクラの様子をボーッとしながら見ているユリ。少しバタバタと騒がしく準備を終えると、ユリと一緒に玄関に早足で向かってく

「じゃ、行ってくるね」

「いってらっしゃい。留守番は任せといて」

 ユリに手を振り玄関の扉を閉じたサクラ。見届けた後のユリは、ふぅ。と一つため息ついてリビングにあるソファーに座った。ふと右手を見つめるとユリの本が突然現れると本のページをめくって、また一つため息をついた

「ミツバねぇ……。それでも本を書かないといけないって、面倒な運命なのかもね……」

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