私との結婚に応じる理由が

思えば旦那が私との結婚を承諾してくれたのは、結局、私と観音かのんとの関係が良好だったからだと思う。それがあればこそ折れてくれたと思うんだ。むしろそれ以外にダンナが私との結婚に応じる理由がなかったと思う。


私が彼の前の奥さんに対して持っているアドバンテージなんて、結局、そこしかないから。


家事は一切やらなかったそうだけど、才能に溢れて私の数倍の収入があって美人で……まあ、<美人>っていう部分については、実は<化粧上手>っていう意味であって、すっぴん自体は私とそう大差なかったそうだけど、一般的な男性は、すっぴんが同程度なら、普通は化粧が上手な方を選ぶよね。


だけど観音かのんは実の母親のことは母親だと思っていなかったらしくって、いや、本当はたぶん分かってたと思うんだけど、情は感じてなかったみたいで、私にすごく懐いてくれてたんだよ。それはたぶん、私が彼女に対して親身に接していたからだと思う。


もっとも、それも、今から思えば公私混同が過ぎるかな。きっと保育士失格だ。だけど、私としてもそれだけ真剣だったのはある。


褒められたものじゃなかったのは事実だと思うけどね。


ただ、それからも、一筋縄では行かなかったな。


そもそも観音かのんが園にいる間は、さすがに園児の保護者とお付き合いするというのは当然憚られたし、そもそも彼女の送り迎えをしてたのはシッターだったから、観音かのんが園にいる間はほとんど彼と顔を合わす機会もなかった。


その分、観音かのんとの関係を丁寧に構築していった感じかな。


彼女は、年齢相応のあどけなさと、とても子供とは思えない冷めたものの見方をするという二面性を持った子供だった。


基本的にはすごくいい子なんだけど時々、大人をぎょっとさせるようなシニカルなことを口にしたりもした。


ある時いつもは母親に連れられてくる園児の一人が、珍しく父親に連れて来られたんだけど、普段からおとなしい方だったその子がいつも以上に、沈んだ表情をしてたのは私も気付いてたんだけど、しかも、やけにモジモジしてて、それで、父親が去った後に観音がその子のところに近付いて、


「お父さんにイジメられてるの?」


ってきいたんだ。


そしたらその子が泣き出して、しかもちょっと尋常じゃない泣き方だったから体調を崩した園児を寝かせておくための部屋に園長がつれていって、詳しく話を聞くと、最初はなかなかちゃんと話してくれなかったのが、しばらくすると、


「パパがね…わたしがねてると……」


それは明らかに性的虐待を窺わせる告白だった。


その子の様子からも、のっぴきならない事態であるということが察せられ、園から児童相談所へ通告がなされ、児童相談所から警察に相談がされ、数ヶ月後、父親が逮捕されたのだった。



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