白紅の使者~十二支に選ばれた小国の王子と大国の皇帝の備忘録~
根川 志怜
第0話 あの日から500年
「そろそろか………」
服も髪も真っ白で黒い目だけがかえって印象に残る二十代後半に見える男が何かしらの画面を見て呟いた。
その画面には二人の青年が映っていた。
「あら、ここにいたのね?」
男を探していたのだろう。見つけて嬉しそうに微笑んでいるのは、黒目黒髪服も真っ黒な女性。全てを飲み込んでしまうような深みを感じる。
「まあ、もう500年もたったのね~。意外と早かったね。」
抑揚のある温かい声で男に語りかけると、少し口元をやわらげた。
「僕からしたらとても長かった…。慣れないことばかりで…。」
何かを思い出しているのか、哀愁をにじませながら黒い髪の女性、ずっと隣で支えてくれていた妻をみる。
「うまくやれたかな……?」
「ええ…。二人だけでは無理だったかもしれないけれど、私達はきちんと守れてたと思うね。」
遠慮なく言い放つ妻にさらに笑みを深めて、そうだな…と呟く。
「おーい!!早く来ないとご飯なくなるぞぉぉぉぉ!」
これまた付き合いの長い男の声が聞こえてくる。もっとも声変わり前のような柔らかい高音だが。
今まで過去を振り返っていたこともあって男は再び過去に意識を飛ばす。
「それじゃあ、私は先にいってるわね!」
お腹を押さえながら走っていく妻の後ろ姿を見ながら、再び画面に視線を戻す。
画面に映っている二人のうち一人は髪は黒色だが、顔や雰囲気がとても男に似ていた。
「こら!はやくこいよぉぉぉぉ!」
なかなか来ないからか、小柄な男が開けっぱなしの扉のへりから顔を出している。
「早く!早く!早く!」
「ぉ腹すいたぁ」
「やはり箸は剣としてつかえるとおもうんだが」
「使えるわけないだろ!竹林!」
みんな相当お腹すいているのだろう。流石に待たせ過ぎたかと、反省をしつつ席をたった。
「ほら!はやくいくぞぉぉ!!」
手を引かれながら騒がしい11人の仲間達との冒険と戦いの記憶を思い返す。
常に戦い、攻めることはなく守ることばっかりだった毎日。最初に自分達から攻撃を仕掛けたのは自分達の世界を支配していた神だった。
刺激的で忘れることのできない記憶。
「あなた。こっちですね。」
妻にいつのまにかバトンタッチされていたらしい。気付けば広い食堂に出ていた。
自分と妻以外はすでに座って待っている。
一番奥のやや豪華な椅子に座り、グラスを掲げる。騒いでた人たちも皆がグラスを手に取り、リーダーの声に耳を傾ける。
「僕達が上界の主となってから500年がたった……。」
それぞれが何かを想うような表情を浮かべて頷く。
「これから僕達の時よりも大きな戦いがおきる……。」
変えられない運命に嘆くように。
「僕達はただ見届けることしかできない。」
自分の力のなさを嘆くように。
「いずれここに踏み込んでくる者達、彼らの力になれるよう僕達も準備をしておかなくては……。」
男の言葉は余韻を残す独特な話し方で、力強さという言葉からは程遠い声が空気を震わした。
周りの11人は男をリーダーとしてここまでやってきた。
彼の言動に何度も救われてきた。導かれてきた。そして、彼の言葉は何よりも人に生きる力と目的を与える。
「僕達のこれからの幸せと若い者達の生き甲斐のある人生に乾杯…。」
12個の12色のグラスがテーブルの真ん中で綺麗な音を奏でた。
それを皮切りに再び騒がしさが戻る。その様子を見て男は思わず溢した。
「君達を待っている…。」
男の言葉は年季を感じさせる温かみのある空間にほんのりと溶けていった。
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読んでいただきありがとうございます。根川志怜です。
もともと一章の終わりにいれる予定でしたが、0話としていれることにしました。
より世界観が分かりやすいのではないかと考えた結果です。
後付けのようになってしまい恥ずかしい限りですが、これからも本作をよろしくお願いします。
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