影の兵士

渋谷かな

第1話 夢幻

「はいやー! はいやー! 走れ! 夢ちゃん!」

 渋谷家の次女、楓に馬をやらされている少年。

「ヒヒイーン!」

 彼の名は夢月幻。渋谷家のメイドである。

「幻、主がお呼びだ。」

 そこにメイド仲間の光月輝が呼びに来る。

「ええー! つまらない!」

「楓お嬢様、続きはまたの機会に。」

 幻はその場から離れる。

「モテモテだな。ロリコン。」

「誰がロリコンだ。」

 幻は輝から茶化される。

「プン! いいもん! 一人で外に遊びに行ってやる!」

 楓は渋谷家の屋敷から脱走しようとする。


「一郎様。お呼びでしょうか?」

 渋谷家の当主、渋谷一郎でる。

「うむ。おまえたちには周辺の皇族の偵察に行ってもらう。」

「はい。全ては一郎様が次の天皇になるために。」

「我らは影。親のいない私たちを拾って育てて頂いた恩は忘れません。」

 幻たち影の兵士は孤児であった。それを渋谷家の財力で戦士として育て上げたのだった。

「幻、輝、頼んだぞ。望と聖は先に行っている。」

「はい。かしこまりました。」

 幻たちは一瞬で主の目の前から消え去る。


「あれ? 楓お嬢様がいない?」

 任務に出かける幻。しかし、さっきまで遊んでいた楓の姿がない。

「どうしました?」

 そこに渋谷家の一郎の妻の向日葵と長女の桜が現れる。

「奥様、桜お嬢様。楓お嬢様の姿が見えないのです。」

「なんですって!?」

「もしかしたら楓は外に出ていっちゃったのかも!?」

「外は危険がいっぱいなのに!?」

 楓の姿は屋敷の中では見当たらなかった。

「直ぐに外を探してみます!」

「頼みましたよ。幻。」

「はい。必ずやお嬢様を見つけてみせます。」

 幻は一瞬で奥様とお嬢様の前から消える。

(幻、気をつけて。)

 桜は幻を心配する。


 屋敷の外。

「公園はどっちだろう?」

 幼い楓は迷子になっていた。

「ガオー!」

 ゾンビの様な人間が現れる。

「なに!? あれ!? 怖い!? キャアアアアアアー!?」

 腐った人間が楓に襲いかかる。

「ブサッ!?」

 楓の目の前でゾンビは一刀両断される。

「お嬢様は俺が守る!」

 現れたのは幻。刀を持っている。

「夢ちゃん!」

 迷子と危険なゾンビから救われて楓の表情に笑顔が戻る。

「大丈夫ですか? 楓お嬢様。」

「怖かったよ!? 死ぬかと思った!? 夢ちゃん!? 遅い!? ウエ~ン!」

 安堵すると恐怖の感情が爆発し泣きまくる楓。

「泣かないで下さい。さあ、お家に帰りましょう。」

「うん。」

(まだまだ子供だな。)

 楓と幻は屋敷に戻ろうとする。


「それは無理だね。渋谷家のお嬢様には死んでもらう。」

 そこに黒い人間が現れる。

「キャア!? 怖い!?」

 幻の後ろに隠れる楓。

「何者だ?」

「死にゆく者に話す言葉ない。」

「死ぬのはおまえかも知れないぞ?」

 微動だにしない幻。

「残念。おまえの相手をするのは、こいつらだ。」

 楓たちの周りを100匹以上のゾンビが現れる。

「腐人か。」

「ギャアアアアアアー!? ゾンビがいっぱい!?」

 ゾンビ、腐った人間のことを腐人と呼ばれている。腐人は既に死んでいる。生きているが死んでいる。生きることを諦めた時、心が腐って人間をやめた時、人は腐人に変異してしまう。

「さらばだ。もし生き残っていたらまた会おう。」

 黒い男は一瞬で消える。

「こ、怖いよ!? 夢ちゃん!?」

「大丈夫です。楓お嬢様は俺が絶対に守ります。」

 幻は子供を安心させるように言う。

「うん。」

 子供ながらに楓は幻を純粋に信じている。

「少し下がっていてください。一瞬で終わらせます。」

 幻は刀を構える。

「夢を無くした者どもよ! 滅びるがいい! 夢幻刀! 夢幻の如し! 夢幻斬り!」

「ゲップ!?」

 幻が一太刀放つと一瞬で100匹以上の腐人が消え去る。

「終わりましたよ。」

「夢ちゃん! カッコイイ!」

 初めて楓は幻の影の兵士としての姿を見た。

「私、夢ちゃんと結婚する!」

「はあ!? やめてください!? 旦那様と結婚するって言っていたじゃないですか!?」

「うんうん! 今から楓は夢ちゃんと結婚するの!」

「嫌です。俺はロリコンじゃありません。」

 楓と遊ぶ幻のコンプレックスである。

「夢ちゃんのロリコン!」

「楓お嬢様、意味を分かっていて使っていますか?」

「知らない。」

 汚れのない純粋な6才の瞳。

「・・・・・・負けた。」

 幻と楓の日々は続く。

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影の兵士 渋谷かな @yahoogle

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