第2話愛しのコリアンガール

ーーー好きな男に差別されるのはキツいーーー

line での成美の発言の一つ。


博茂と玲華についてのことだ。玲華は朝鮮人の血が流れていて、ネトウヨで人種差別主義者の博茂と付き合っている。そして博茂は玲華のルーツのことをまだ知らない。

これは男も同じだ。つまり、可愛くて可愛くて好きで好きで堪らん女に差別されるのは、男としても確かにキツい。


考えないようにしてきた。あの日のこと。


中学生のとき、違うクラスの女の子に恋をした。美しい顔をしていた。大きなお尻に小さなバスト。背が高くて跳ねるように歩いた。


彼女は「宗介くん、小学生のとき、私に告白したよね」と。

彼女は勘違いしていた。実は、彼女に告白したのは当時のボクの親友で、ボクではなかった。しかし、ボクは彼女の勘違いを訂正しなかった。


ボクは彼女といっしょに映画へ行った。


そのあと、ボクは彼女が在日コリアンだと知った。ボクは混乱した。ボクは韓国人が嫌いだったからだ。

ものごころがつくころから、母はテレビの中でしゃべる韓国人を侮蔑した。「ハングルって変な言葉だね〜」とも。それ以来、ハングルは変な言葉にしか聞こえなくなった。

韓国人は感情の起伏が激しく、それをストレートにぶつけてくる、そんなイメージがあった。直接会ったこともないのに。


ボクは本当に困っていた。彼女を愛すべきか差別すべきか。

彼女の笑顔にうっとりしていると、心の奥で彼女をいじめたい衝動に駆られた。また、彼女に蔑んだ視線を向けながらも、愛おしい感情が抑えきれないのだった。


ある日、彼女の部屋でいっしょに Netflix を見ていた。セレブ高校生が出てくる海外ドラマ。

イビキをかいて眠っている恋人の寝顔を見ながら女子高生が過去を回想する。ボクは、次のシーンでこの二人は別れるんだろう、と気づいた。ボクはとてつもなく切なくなり、隣にいる彼女を押し倒して無理矢理キスをしてしまった。

グーで殴られた。

殴ることないだろう、をスタートにバトルが始まった。


「朝鮮人のくせに!」

ボクは思わず言ってしまった。

あのときの彼女の呆然とした表情を一生忘れない。

やがて彼女はシクシクと泣き出し、ボクにボックスティッシュを投げつけた。


それ以来、在日コリアンの彼女はボクを避けるようになった。


小学生のときボクに告白されたと思い込んでいる在日コリアン女性が、ボクに差別された記憶と共に、今もどこかで生活している。ボクはそれを思うととても寂しい気持ちになる。


あのとき、気づいていれば。在日コリアンの彼女もボクらと同じで繊細で傷つきやすく、悲しいときは泣き、ゴキゲンなときはサイコーの笑顔を見せてくれる、ということに。


ボクは、繊細な心に過去の罪を抱え、それでも今は極太に生きている。


それでも、博茂と玲華の話を聞くと、中二のころの在日コリアンの少女のことを思い出したりする。

今ごろ彼女は恋人とのオーラルセックスにもすっかり飽きて、ウクライナ産のワインを飲みながら clubhouse でもしてるんじゃないだろうか。

一方ボクは、たとえば今朝は自宅で、ミャンマー産のコーヒーなんて飲みながら普通に K-POP を聴いていたりする。


呼吸がキツい。久しぶりの人混み。3密上等。

ボクは街で一番大きなレストランで海斗と成美で食事をしている。海斗の誕生日祝いも兼ねて。


ああ、新型コロナウィルスなんてこの世から消えちゃえばいいのに。

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