愛しのコリアンガール

Jack-indoorwolf

第1話晴ればかりではない

博茂の彼女に韓国人の血が流れていることが判明した。博茂本人はまだ何も知らない。博茂はネトウヨで人種差別主義者を公言している。もちろん韓国人を嫌っている。


博茂の彼女は玲華といい祖母が在日コリアン2世なんだと。趣味でプロ級の油絵を描くとてもかわいい女の子。


一方ボクには、いっしょに一夜を過ごすような決まった女の子はいない。


そんなことより北海道の旅。

先月ボクは、北海道の南側をレンタカーに乗って、気ままな一人旅をした。川では産卵場所を探す鮭を見つけたし、内陸ではトラクターを使ったジャガイモの収穫作業を見学した。

太陽が出ている時間は海岸線に沿って東へドライブし、夜はセキュリティーが甘い郊外の学校を見つけ、教員用駐車場に車を停めて、車中泊をした。

北海道の季節と自然を感じ、みみっちい時間の使い方はしないで、のんびりとさすらった。

そういう生活。ボクは、そんな暮らしを続けている。


21のとき、姉が離婚した。姉が地元にある漬けもの屋の二代目と結婚したのは、そのまた遡ること7年前、ボクが高一のとき。漬けもの屋と笑ってはいけない。ここ北海道の年寄りばっかの地域では漬けものバカ売れ、かなり儲けている会社なのだ。


元義兄の会社は、各種の漬けものを真空パックにして全道のスーパーマーケットに卸している。

ボクは元義兄に訊いたことがある。

「漬けものが売れる秘訣は?」

「ちょっと味付けを濃くしているだけだよ」

元義兄は笑った。


姉が離婚したとき、元義兄はボクにも5千万円の慰謝料をくれた。姉思いの弟に対する罪ほろぼしのつもりだろう。

「宗介くん、すまん」

当時、元義兄は遠くを見ながらボクにそう言った。

果たして5千万円で、元義兄の心は軽くなったのだろうか。


たそがれる。ボクは5千万円のせいで人生観が変わってしまった。

働かなくていい時間、つまり考える時間がたくさんあってボクはノイローゼに捕まった。ネガティブなことを考えすぎたのだ。

それでも、金に困っていないのをいいことに、ボクは定職に就かずプラプラしていた。


で、北海道の旅。

病んでいたボクにはリフレッシュになった。


ーーー海斗の誕生日プレゼントど〜する?ーーー

昨日、成美からline が届いた。

成美は学生時代の友人だ。そして海斗も。3人はバブル経済の崩壊について、いっしょに勉強した仲。


成美は大学卒業後、市から委託されて公園管理をしている民間企業に就職した。街外れの大きな公園に通勤している。夏は芝生刈り、冬は除雪、その他池の借しボート運営、イベント誘致、施設メンテやゴミ拾いまで仕事は色いろ。成美は一年中日焼け止めクリームを塗って生活している。

本来、成美は大学在籍中にアメリカへ留学するつもりだったが、コロナ禍のせいで計画は頓挫。今も働きながら英語の勉強をしてチャンスをうかがっている。


海斗は変わった奴だ。高校生のころ完成させた約100万字の長編小説を未だに加筆修正しながら毎日を過ごしている。その作品を、どこかの出版社に投稿するつもりはまったくないらしい。もちろん無職だ。


もうすぐ海也の誕生日。

成美とボクはニートの海斗に一目置いていた。海斗が書いた短編小説がボクたちを感動させたからだ。それ以来成美とボクにとって海也は特別な存在。だから海斗の誕生日には、大学卒業後もリモートで集まって酒を飲んだりした。ちなみに成美とボクの誕生日には誰も集まらない。

まぁ、そんなもんだ。


在日コリアンと人種差別主義者のカップルの話を再び。

玲華は博茂にカミングアウトしようかどうか迷っているらしい。玲華自身にコリアンの血が流れていることを恋人である人種差別主義の博茂だけが知らない。博茂以外はみんな知っている……ちょっと笑う。


海斗とネットでビデオ通話した。奴、やっと新型コロナ肺炎のワクチンを接種したんだと。

日本では去年の春からワクチン接種が始まった。最初は医療従事者やエッセンシャルワーカーたちが優先だった。そうして、昨秋から我々一般人にも解禁され、ボクも久しぶりに注射を打たれた。

さて日本の新型コロナウィルス感染者は減るのだろうか。今現在は、毎日、政府が数字と睨めっこしている段階だ。


海斗のバースデイパーティをリアルでやろうという話になった。成美も誘うか。3人ともワクチン接種したのでとりあえず安心だ。


ボクは自宅のリビングルームで梅干しを食べながら他の2人に line した。



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