White
まる
冬の日
「うー…寒い!!」
この時期になると、イルミネーションを、彼と見に行く。
寒い寒いと言いながら、2人で見る綺麗なイルミネーションが私は大好きだ。
お気に入りのマフラーを巻いて、外へ出る。
少し歩けば、彼が待っていて。
「お待たせ。」
って言うと、彼は笑って
「行こっか。」
ってさり気なく手を繋いでくれる。それだけで私は嬉しい。
「今日も寒いね、でも……。」
「綺麗だね!」
2人とも同時に言って、笑い合う。
この時間は私にとって特に大切なものだった。
幸せな気持ちになれるから。
「また、来年も来ようね!」
そう、ニコニコとしながら言う彼の隣で、いつまでも、いつまでも笑って居たいと思う。
「大好きだよ。ずっと。」
彼にだけ聞こえるように、呟いた。
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あれから何年が経っただろう?
今も私はこの時期になると、イルミネーションを見に行く。お気に入りのマフラーを巻いて。
「寒い〜…。」
と言いながら見るイルミネーション、やっぱり綺麗だなぁ…。今年は雪も降っている。
綺麗だね、寒いね、雪降ってるね!なんて言っても、返事は帰って来ないけど。
ここには居なくても、私の心にはずっと居るよ。
お気に入りのマフラー、巻いてるとね、一緒に来れた気がするの。
「来年も来ようね。」
ってあなたが言ったこと、忘れてないよ。
あの時、病院で
「もう行かなくて、良いからね。」
って私が辛いから、笑顔で言ってくれたのに、なんで毎年来ちゃうんだろうね…。
「俺の事、忘れちゃうくらい好きで、大切にしてくれる人見つけて、幸せになってね。」
あなたは私にそう言ってくれた。
幸せになってって…、私はあなたと居れる事か幸せだったんだよ?どうして、どうして…っ、あなたがそんな事にならなきゃいけなかったのかな…。明るくて優しい、私の大好きなあなたが…。ずっと一緒に居られると思ったのにな…。気付いてあげられれば良かった…。
いっぱい考えてしまう私の性格を心配して、強がって、言ったのかもしれない。
無理だよ…っ、大好きなんだもん…。あなたの全部が…、忘れる事なんか出来ないよ…。もう1回だけで良いから、会いたいよ…。
涙がぶわぁ、っと溢れてきて、必死に拭う。
「会えるわけ、ないのになぁ…。」
もう、帰ろう。そう思った時、誰かに後ろから抱きしめられた感じがした。
「ずっと待たせて、ごめんね。」
居ないはずの彼の声が聞こえて、はっ、っと後ろを向くと、そこには雪にも負けない白さの犬がちょこんと座っていた。
白い犬は、目をキラキラと輝かせて尻尾を振っている。
私はふと思い出した。
「生まれ変わったら、俺は犬になりたいんだ〜!!可愛い犬が良いな!」
って言っていたことを。あの時は
「なんでそんな話?治して旅行行くんでしょ〜!!」
なんて笑っていたけれど。
もし、もしも、本当に犬に生まれ変わったとしたら…?
私は、涙を流しながら犬を抱きしめた。犬は私の顔をペロッと舐めて、大丈夫だよ。と言ってくれているみたいだった。
雪が降る、イルミネーションが綺麗な夜に出会った白い犬。彼がもう一度私に会いに来てくれた。
その事がとても嬉しくて、夢なのかと思ったけど、この子のあたたかさは本物だった。
「じゃあ、一緒に大好きな大好きなお家に帰ろっか!」
抱きしめたまま頭を撫でて、幸せな気持ちで歩いた。歩きながら、自分の気持ちを、小さな声で言うことにした。
「ごめんね、大切にしてくれる人どころか、忘れられなくて好きな人、見つけられなかったの。やっぱりあなたが、1番好きなんだもん。」
犬は、少し嬉しそうに、私を見ていた。
「でも、今日会いに来てくれて思ったの。あなたが、またこうやって一緒に居るうちに、好きな人を見つけて幸せになるね。ずっと忘れられない私を心配して、見に来てくれたんだよね?姿は違うけど分かるよ。」
ワン!と元気に吠えて、頑張れ!って言ってくれているようだった。
「あははっ!元気なところそっくり!…よし!ゆっくりでも、あなたの事安心させてあげなきゃね?好きな人、すーぐ出来ちゃうかも?」
犬はちょっと拗ねているような気がして。
「嘘だよ!はやく帰って一緒に遊ぼうね!」
そう言うと嬉しそうに、ワン!と吠えた。
とても素敵で、不思議で、幸せな出会いをした冬の日だった。
White まる @maru_33726
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