第57話 ユキワリソウ②

(…ん?)


気のせいだろうか、少年の魔力が弱ってきている気がする。


(あれ…?)


少しだけ少年の見た目が変わったように見え、私は目を凝らした。


(色が…薄くなった?)


彼の周りを覆うようにして掛けられている魔法の膜が、どんどん弱くなっている。


「ね、ねえ。大丈夫…?」


見ると、少年の顔が青白くなっていた。


呼吸も荒い。


「ちょっと、大丈夫なの!?」


近づこうとして、私はハッと足を止めた。


少年の姿が、いや、色が、変わっていっていた。


茶色だった髪は白く、肌の色も、白絵の具を流しいれたように薄くなっていく。


(これって、もしかして…。)


「うぅ…。」


少年はうつむくと、苦しそうに目を覆った。


「まぶしい…。」


(!)


私はとっさにカーテンを閉めた。


顔に当たっていた日光は消えたが、その部分は少し赤くなっていた。


白い髪に、驚くほど白い肌の少年は、赤く腫れた顔を手で押さえて、カーテンからか

すかにもれる光に背を向けた。


(アルビノ…なのかな?)


少年の体の周りに、保護魔法と私と同じ擬態魔法が先ほどまでかけられていた。

恐らく日光から身体を守るためだろう。


その魔法が弱まったことで、両方とも解かれてしまったようだ。


「なんだ…?」


少年がこちらを振り返らずに、弱々しい声で言った。


「おかしいか、この見た目が?」


手が震えている。

魔力が少なくなったためだけではないだろう。


私は首をかしげ、


「いや別に…。私のも珍しいっぽいし。」


と言って、自分にかけた擬態魔法を解いた。


横の鏡に映る自分の髪が、一瞬のうちに黒色になるのが目に入った。


(あーこの髪色。なんか久しぶりだなー。)


呑気に久々に元に戻した自分の髪を見る。


(あ、枝毛。)


「はっそうだな。その髪色は魔女の色だ。」


鼻で笑う少年。


「はい?黒髪は日本人では普通なんですけど?こっちの人たちの髪色の方が珍しいわ

よ!」


私はむっとなって答えた。


「大体、黒髪が魔女なんておかしいんじゃないの!そうしたら日本人皆魔女になるじゃん!望んでこの世界に来たわけでもないのに犯罪者扱いするなんて、迷惑もいいとこだわ!」


今までの鬱憤を吐き出すように、私は少年を攻め立てた。


いきなりの剣幕に驚いたのか、少年は目を丸くして固まっている。


(あ、やっちゃった…。つい…。)


私は気まずくなって咳ばらいをすると、


「と、とにかく…。私は薬を作ってくるから、ご飯食べてて!」


と言って、そそくさと客間から逃げ出した。




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