第54話 ハーデンベルギア③
夢を見た。
昔の、子供のころの夢だ。
皆いる。
お父さんも、お母さんも、家族みんな揃っている。
みんな幸せそうに笑い、食卓を囲んでいる。
でもその中に、自分はいない。
「
皆が楽しそうに談笑する中、母親の口が動いた。
「
「
頭の中で、母親と、もう一つ、聞き覚えのない声がこだまする。
その途端、目の前が暗転した。
「
「!」
夢から逃げるように、無理やり目を開ける。
身体は緊張したように固くこわばり、汗でシャツがべったりと背中に張り付く。
頭がひどく痛い。
(…くそ。)
鈍く痛む頭を押さえると、包帯のようなものが手に触れた。
(なんだこれ。)
包帯など、巻いただろうか。
起き上がって見慣れない部屋を見回していると、すべてを思い出した。
(あの魔女!)
素早くベットから飛び降り、辺りを警戒する。
しくじった。
今のこの状況は、敵の手中にいるようなものだ。
音を立てないように気を付けながら、廊下を進む。
簡単だ。
あいつは魔女と言えど、魔力は自分の方が上だ。
すぐに捕まえて、城に引きずり渡せばいい。
辺りに漂う魔力を追っていくと、地下の部屋にたどり着いた。
(ここだ。)
間違いない。
ここだけ魔力が強い。
この部屋に魔女がいる。
ゆっくりと扉を開け、中をのぞく。
魔女は、何かを作っているようだった。
(なんだ…?)
攻撃する機会をうかがう。
この匂い、知っている。
(なんだったか…。)
そんなことを考えていると、オーブンから料理を取り出した魔女が、こちらを向いた。
手に取りだしたばかりの料理を取り出したまま、じっとこちらを見ている。
その顔は一瞬だけ恐怖の色が浮かんだように見えたが、すぐにそれも消えた。
「起きたんだ。」
魔女は言った。
「調子はどう?」
何も答えないでいると、魔女は料理を置いて、しばらくこちらに背を向けていた。
(今がチャンスか…?)
そう思い、一歩踏み込んだ。
「出ていって。」
振り向くことなく、魔女は言った。
肩を抑え、痛みに耐えるように肩をこわばらせている。
(あの傷は…)
魔女の腕に血がにじみ始める。
「お願い。」
「お願い」
そう頼む少女と、母親の姿が重なった。
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